日系企業のタイ進出、成功のカギは“コンプライアンス遵守”にあり!?
海外進出や現地法人の設立を進める上で、その土地のビジネス慣習を学び、法や規制を知ることは足場作りの“はじめの一歩”と言える。
言語や文化の違いにばかり目が向けられがちだが、株主構成や登記システムなどコーポレートガバナンスの仕組み一つとっても日本と海外ではまったく仕組みが異なり、そのギャップに戸惑いを覚えることも少なくないだろう。
比較的、厳しい外資規制を設けるASEAN諸国の中でも、強固なルールを敷くタイではなおのこと。
自国の経済発展を第一とする状況下において、日本式をそのまま持ち込んでも社会通念上まかり通るわけがない。
やはりローカル企業とパートナーシップを結び、タイの各種法令や制度を抜かりなく遵守する必要があると言える。
日系企業がタイのビジネス市場を生き抜くために、留意すべきポイントとは何なのか。
複雑な企業法務の中でも、ここ数年において世界的に関心が高まるコンプライアンスの観点からOne Asia Lawyersタイ事務所の藪本代表と、東京都中小企業振興公社の木村所長に話を伺った。
One Asia Lawyers メコン統括/タイ事務所代表藪本 雄登
2010年にOne Asia Lawyers(旧JBL Mekongグループ)を創業。タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマーなどに約10年居住し、同地域へのクロスボーダー進出支援業務をはじめ、M&A、コンプライアンス、コーポレート、労務、訴訟関連案件などを幅広く手掛ける。
(公財)東京都中小企業振興公社 タイ事務所 所長木村 正幸
1969年生まれ。中小企業診断士、MBA。民間企業勤務を経て、2008年(公財)東京都中小企業振興公社に入社。15年より海外販路開拓支援を担当し、18年10月から現職。
コンプライアンスの大枠は「法令遵守」と「内部統制システムの構築」と心得よ
その上で会社内部のガイドラインを構築することが第一歩。
適切な体制構築は、企業と労働者の双方にとって有益である。
コンプラを重要視する声がここ数年で増えていますね
はい、そうですね(以下、藪本氏)。
コンプライアンスの遵守は世界的な流れですし、タイでもここ2~3年でグッと関心が高まってきています。
コンプライアンス(Compliance)は一般的に「法令遵守」と訳されますが、「社会規範」「社会倫理の遵守」といった要素を含んでいると考えます。
タイにもさまざまな法律がありますので、当然、法令違反すると行政処罰の対象になり得るのです。
これを企業運営に落としこんで考えると、より効果的なコンプライアンス体制を構築するためには「①規則制定→②導入→③監査」という一連のワークフローに従うのが実践的です。
すなわち、①規定などを整備し遵守すべきルールを策定する ②セミナーなどを通じ当該ルールを子会社に浸透させる ③規定内容や導入活動による浸透度を監査・把握する。
これらをもとに規定・運用の見直しを繰り返すことになり、タイ政府もこのような仕組み作りを奨励しています。
コンプラ体制の有無が企業の免責を左右することも
例えば、巷でよく聞かれる贈賄問題が発覚したとします。
仮に一部の従業員や個人による単独行為だったとしても、タイでは両罰規定とされ、賄賂を支払った本人だけでなく、所属する法人に対しても罰則が加えられる可能性があります。
ただし企業が罰則対象になったとしても、社内にきちんとしたコンプライアンス体制や内部統制上の仕組みがあることが当局に認められれば、責任が減免される場合があります。
つまり、不正を阻止し得なかったとしても、会社を防衛できる可能性があるのです。
国家防止委員会(NACC)は2017年12月、汚職撲滅を目的に8つの原則を盛り込んだガイドラインを発表し、全法人に対して内部統制システムの導入・執行を奨励しています。
8項目の中には、贈賄疑惑の報告を促すための「内部通報制度」も含まれ、企業による自主的な導入が求められています。
現地だけでなく日本本社の管理機能も求められますね
その通りです。
コンプライアンス体制の構築や運用には、日本側(親会社)の管理やサポートが必要不可欠です。
最近では、子会社の適切な体制構築のための法や規則を知りたいという日本側からの相談も増えています。
また、子会社側のリソース不足もよくあるため、親会社の協力を得ながら監査などを抜かりなく行い、知らないうちに法令違反が生じていないか、定期的に確認していくことが重要です。