【97,97年の落ち込みはアジア通貨危機によるもの】

長谷場:さて、良いことばかりは続きません。プラザ合意の時はタイにプラスの影響がありましたが、今回は大きなマイナスの影響があったアジア通貨危機の話です。このアジア通貨危機は97年に起こりました。生まれる前の話だから知らないかな?

ミィ:え? アジア通貨危機?

長谷場:ドル、円、バーツといった通貨の交換レートは市場(マーケット)で決まる、っていうことを説明したよね。

ミィ:はい、経済感覚を磨くために毎日チェックします。

長谷場:いつも勉強熱心ですね。でも97年6月まで、バーツを売りたい人と買いたい人の間(マーケット)の需要と供給のバランスで交換レートを決めていたのではなかったんです。当時はタイ政府が1ドルを約24.5バーツと決めていました。1ドル持って来れば、必ず24.5バーツに変えてもらえた。これを固定相場と呼びます。

ミィ:いつも同じレートって良いですね。損する心配がないし、この先、上がるのか下がるのかドキドキしなくていいですしね。

長谷場:そうですね。安心ですよね。日本も73年までは固定相場でした。ちなみに現在のようなマーケットで交換レートを決めるのを「変動相場」と呼びます。
さて、97年頃のタイは銀行の金利が良くて、1年間銀行に預けておくと10%ぐらいの利息がもらえました。

ミィ:うわぁー! 夢のようですね。

長谷場:その分、物価も上昇してるので、通貨としての価値はあまり変わらないのですが。
さて、そうすると、例えば国外から100万ドル持ってきて、2,450万バーツにして銀行に1年間預ける。そうすると利息分として245万バーツが増えて2,695万バーツになる。ここで政府が1ドル24.5バーツと決めてくれているので、このバーツをドルに戻すと110万ドルになって持って帰れる。

ミィ:おお! 銀行に預けていただけで、そんなに増えちゃうんですか? 損しないで確実に増えるってスゴイですね。

長谷場:預ける方は損をする心配はないけれど、この仕組みを維持するためにはタイ政府は大量のドルを保有する必要があります。さっきの逆でいつでも24.5バーツを持ってきた人には1ドルを渡さないといけないからです。

ミィ:うーん・・・、確かにそうですね。

長谷場:24.5バーツならいいけど、何兆バーツも持ってきて「ドルに両替してください」っていう人が現れたらどうなるかな?

ミィ:えー! そんな人がいたら困ると思いますけど、そんな大金持ちの人いないですよ~。

長谷場:それがいたから大問題が起きてしまったんです。

長谷場:その当時は、銀行が預金に対して10%も金利を付けるから、企業がお金を借りようとするとそれ以上の金利を返さなくちゃいけなかったのです。
でも、そのころのタイ経済はとても調子が良かったので世界からお金が集まっていました。逆に言うと、タイの企業はドルでたくさんのお金を借りていたんです。

ミィ:借金がたくさんって嫌な感じですね。

長谷場:そう。ここまで説明してきたようにこの仕組みは「タイ政府が大量のドルを持っていて、いつでも売られたバーツを決まったレートでドルと交換する」ことが前提です。でも、どこの国もそうですが無限にドルを持っている訳がありません。極端なことを言うと、自分の国の通貨(タイの場合はバーツ)なら印刷すればいいけど、ドルは他国の通貨だから何かを売って稼がないといけません。

ミィ:じゃあ、ドルが無くなっちゃうことも?

長谷場:そう。そこに目を付けたのがヘッジファンドと呼ばれる人達。彼らはお客さんからお金を預かって運用して、儲けをお客さんに配るというのがビジネスです。

ミィ:お金を預けたら増やしてくれる人、ってことですか? イイ人じゃないですかぁ、私も預けたーい。

長谷場:コラコラ、単純な話ではないのですよ。ヘッジファンドのお客さんから見るとそういうこと。でも、この人達はこのタイの通貨政策の矛盾に目をつけて、97年5月からタイバーツを売りまくったんです。人からバーツを借りてきてでも売る。そうすると、タイ政府は1ドル24.5バーツというレートを守るためにドルをどんどん手放さざるを得ない。
そして97年7月2日に、ついにタイ政府の保有していたドルが無くなってしまいました。

ミィ:えー、本当に無くなったんですか? 大変ですね。で、その後は?

長谷場:タイ政府にはドルが無いので、もう売られるバーツを買うことができない。そのため、政府以外の買い手によって市場で売られるバーツを買うことで、レートが決められていくしかないんですね。
でも、そういう状況ですから、その時のバーツは通貨としての信用を失ってしまっていたので暴落していくしかなかったのです。この時の惨状から「血塗れのバーツ」なんて言われたんです。

ミィ:ひー! やだよー。

長谷場:どのくらい暴落したかというと、最終的には半年で1ドル50バーツにまでなってしまいました。でも、バーツが暴落したという事と併せて、問題だったのは「タイ企業がドルでたくさん借金をしていた」ということなのです。

ミィ:どういうことですか?

長谷場:例えば、ミィさんが私から100ドルを借りてタイでビジネスをしているとしましょう。1年後に100ドルを返すと約束します。分かりやすいように利息は無しで。そうするとミィさんはタイでビジネスをする訳ですから、100ドルはタイバーツに変えてビジネスをします。借りた時、100ドルは2,450バーツでした。1年後に同じく2,450バーツを返せば、100ドルを返すことになるハズ…でした。

ミィ:借りた時に100ドルは2,450バーツでしたからね。

長谷場:ところが、この間に1ドル50バーツになってしまっています。私は「100ドル返してください」と言いますよね。そうすると、ミィさんは何バーツを用意して両替所に行かないといけないですか?

ミィ:え? もしかして5,000バーツ? うそー! 倍じゃないですか!?

長谷場:そうなんです! なんと、タイ企業の借金が倍になってしまったんです。こうして、企業がバタバタと倒産しましたし、タイに進出していた日本企業も非常に苦しい状況に陥りました。今でも、バンコク市内にコンクリートの構造物だけが残って雨ざらしになっている建物がありますが、この時に倒産してしまった会社の建設途中の物件がそのままになっている、というケースが多いです。

ミィ:確かに、そういう幽霊が出そうな落書きだらけの建物がありますね。

長谷場:この経済の落ち込みがグラフにある実質経済成長率の大きな落ち込みなんです。

ミィ:おー。そこにつながるんですね!

長谷場:ちなみに、他人からバーツを借りてタイ政府のドルが無くなるまで売ったヘッジファンドですが、暴落した後のバーツを買って借りた人に返せば暴落した分が儲けになる、そういう仕組みで文字通りボロ儲けしたのです。

ミィ:なにそれー、ヘッジファンドってひどいですね! ヒドイ!

長谷場:確かにタイ側から見るとひどい話なんだけど、ヘッジファンドにお金を預けていた人から見たら「たくさん儲かって良かった」となってしまうんだよね。物事は両面から見ないと何とも言えないんだよ。

ミィ:うーん…、ビジネスはキビシー。

長谷場:ところでタイでボロ儲けしたヘッジファンドですが、タイだけでは終わらずマレーシア、インドネシア、フィリピン、香港、韓国が狙われました。中にはタイと同じ問題を引き起こした国もあります。こうした一連の流れを「アジア通貨危機」と呼んでいます。

ミィ:大変だったんですね。