在タイ日系企業のお客様まわりをしていると、「海外赴任を希望する若い人材がいない」「後継者がいないため、自分の赴任期間が延びている」などの悩みをよくお聞きする。

転職が当たり前となった現代

中小企業だけの話ではない。自動車の大手一次サプライヤー会社でもこうしたことをお聞きする。どういうことなのかと更に突っ込んで聞いてみると、若い人に海外赴任の内示を出すと、会社宛てにすぐに「退職願」を出すという。海外赴任だけでなく、国内の転居を伴う転勤に対してもこうした事例はあると聞く。

転職ということが当たり前となった現代では、若い人たちは何の躊躇もなく「退職願」を出すのであろう。こうした若い人たちに特徴的なことは「現状の境遇に満足し、リスクを取ることを好まない」という性格のようである。

なぜこのような人たちが多く養成されていくのだろうか? 私の勝手な想像であるが、現在の20歳台、30歳台の人たちは団塊世代を含めて高度成長期に育った人たちを親に持つ世代である。私自身もこの高度成長期に育ったわけであるが、日本が豊かになっていくなかで核家族化が進み、自分たちの豊かさを求めて一人っ子家庭が多くなり、親が子供に対して過度に手をかけられた時代であったと思う。兄弟間の争いや協調も経験せず、社会の荒波には親が防波堤となる。結果として経験も挫折も少なく、何もしなくても安定した生活を送ることができたのである(もちろん、これは全ての人に当てはまるわけではありません)。

「無難な人」を採用するリスクに気づかぬ企業

一方で、会社側の姿勢にも大きな問題がある。コンプライアンスが最重要価値となった日本企業は、とにかくリスクを取らない。まず採用の段階から「特徴のある人」や「高い目標を持っている人」は不採用とする。週刊経済雑誌の就活特集を読んでみると、すぐわかる。企業の人事担当者の採用基準は「無難な人」なのである。更に、入社後は多くの企業において「前例踏襲型のリスク回避態度」が蔓延している。また企業収益の低下した日本企業は、社内に余剰人員を抱える余裕も無く、もし若い人に退職でもされたら大変なことになる。海外転勤内示を公布しても「退職願」を提出されれば、会社はあわてて撤回。そして社内は、いつでも海外転勤を拒否出来る空気となるのである。

いよいよ総人口まで減少し始め、国内の需要が急速に低下していく日本を見ながら、日系企業は生き残りをかけ海外展開を始めた。しかし人材という補給線が断たれ始めている。これでは日系企業の海外展開はおぼつかない。今こそ官民あげて発想の転換が必要である。

果たして海外へ行きたい若い人たちは、いなくなったのだろうか。私は決してそうは思わない。日本で就職できなかった、もしくはしなかった多くの若い人たちが、このタイの地に移ってきて、ここで職に就いている。

私の働いているバンコック銀行日系企業部でも10人弱の日本人プロパー行員がおり、依然として日系企業部への就職希望者が訪れてくる。最近では大学新卒予定者からのコンタクトもある。日本企業は、こうした意欲のある若者の就職希望を見逃しているのではないだろうか?

また、海外で通用する人材の概念も間違っているのではないだろうか? 日本人は、海外人材というとすぐに英語のできる人を想像する。最近は海外人材として日系企業が帰国子女を採用するが、日本国内で使い道がなく、辞めていくという話も聞く。

語学より大切な意志、熱意、人間力

海外で通用する人材とは「自らや日本のことをわかりながら、自分とは異なる考えや文化を認め交流ができる人たち」である。残念ながら同質社会である日本では、異なる考えや文化と接する機会も少なく、よって自分を客体化して見る必要も無い。しかし、世界の多くの国ではこれは当たり前のことである。

私たちバンコック銀行日系企業部では、提携銀行から20名以上の出向者を受け入れている。これらの人選にあたっては語学の出来は要件としていない。来ている人たちには大変申し訳ない言い方であるが、しょせん日本人の英語力など期待していない。

今の日本人に、相手を説得出来るだけの英語力を持っている人はどのくらいいるだろうか? 私共のバンコック銀行日系企業部で働いていると、厳しい日系企業の要望に対し、タイ人行員を説得してやってもらうという手順が恒常的に発生する。こうしたコミュニケーション能力は転入後6カ月間で、「小澤塾」と呼ばれる徹底した職務教育の中で身につけさせる。20名強の出向者の中には当初より語学力が向上した者がいるが、それ以上に職務遂行に対する意志、熱意(恥ずかしさを捨てることを含めて)、更には人間力が備わってきている。

ここで私から二つの提案をしたい。まず日本企業に対してであるが、社内に少し余剰人員を採用して海外拠点に転出させ、とにかく海外生活に慣れさせてほしい。最初は使い物にならないのが前提である。2年程度で良いので、常にこうした要員を育成していくことである。少なからず辞めていく人もいるだろうが、それも織り込んでほしい。

もう一つの提案は、大学のインターンシップに海外派遣を盛り込んでほしい。1カ月から3カ月のインターンシップ期間を設けて、海外の日系企業で実習を積ませ早いうちから海外に慣れさせることである。こうしたことを地道に続ければ、海外で通用する人材が必ずや育ってくるのである。

—次回に続く