日本貿易振興機構(ジェトロ)が発表した「2018年度タイ国日本食レストラン店舗数調査」によれば、タイ全土には3004店の日本食レストランがある。2014年には2000店舗であったことを考えると、4年の間に1000店舗も増加したことになる。この間在留邦人数がそれほど伸びていないことから、日本食が急速にタイ人に普及していることが分かる。

高まる知名度、老舗と数え切れないほどの専門店

今から35年前、私が初めてアメリカ中西部ミネソタ州ミネアポリス市に滞在した時、日本食レストランはたった1軒だった。まだ若かった私は、毎日アメリカ料理でも特に問題なかったが、ある日、日本人の友人とこの日本食レストランに出向き、久しぶりの天丼をオーダーした。

天丼のふたを開けてみてびっくりした。天丼が真っ黒に見えたのである。砂糖としょうゆで強烈に味付けされた天つゆが、ごはんを隠さんばかりにひたひたに注がれている。天ぷらの衣は厚く、かつ低温で揚げられていたためか、その衣は油でベタベタの状態。一口食べてみたが、とても食べられるものではなく、申し訳ないと思ったが全て残してしまった。あとから聞いた話では、その日本食レストランは韓国人が経営しているとのことだった。

2回目の海外赴任は、1987年から米ロサンゼルスであった。当時のアメリカは、ブラックマンデーに代表される不況のど真ん中。一方の日本は、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称えられて絶賛されていた時代。

当時のアメリカは日本食ブームに沸いていたが、その日本食とは「寿司もしくは刺身」「天ぷら」「牛肉の照り焼き」の三点セット。日本食レストランは、すべからくこれら三点のコンビネーションプレートを取り扱い、すし専門店と銘打っているところでも、大半は天ぷらや牛肉の照り焼きをメニューとして持っていた。こうしたすし専門店には「通」のアメリカ人がカウンターに腰掛けていたが、カリフォルニアロールをおかずに白飯を食べるなど、日本人の感覚から外れた光景を頻繁に目にした。

ところが、現在のタイの日本食レストランでは、こうした姿から大きく変貌を遂げている。もちろん、各種日本料理を取り揃えた日本食レストランは数多くあるが、老舗の「葵(あおい)」や「日本亭」など高級レストランでは、日本に負けない本物の日本の味を20年以上維持し続けている。

また、すし屋は言うに及ばず、ラーメン、トンカツ、カレー、お好み焼き、豆腐料理など、数え切れないほどの専門店が存在する。「大戸屋」「COCO壱」「さぼてん」「牛角」「吉野家」など、日本でお馴染みの看板も至るところで見かける。タイで食べられない日本料理はないのではないかと思えるほどである。

こうした日本料理の普及は、海外に住む日本人にとって大変歓迎すべきことである。タイに住みながら日本と同じ味のものを食べられるということは、当然の喜びである。さらに、この10年で「日本」のイメージはすっかり衰えているが、日本食に限って言えば認知度は高まってきている。「日本食」を通して日本の良いイメージが広まることは、海外で働く日本人にとって強い追い風となる。日本は国としてのPR力は弱いが、日本食は民間の力で日本を宣伝していく強烈な方法である。

—次回に続く