【第21回】こんな企業は海外進出の資格がない(後編)

平和慣れした日本人にはわかりにくいが、海外に行くというのは危険を伴って生きていかなければならないということである。日本では安全が“ただ”で手に入るが、海外に出れば決してそのようなことはない。言い古されたことではありながら、これを海外派遣社員にわからせている企業はあまりに少ない。

海外では安全はただではない

タイには4月にソンクランという水掛け祭りがあり、毎年300~400人がこの祭りのせいで死亡する。市民が銃を持つことが一般的なアメリカでは、私が駐在した1980年ごろ、高速道路でいきなり隣の車に発砲する事件が多発していた。こうしたことが“流行”となり、何人もが同様の事件を繰り返していた。

現在のアメリカでは、学校や教会を狙った銃撃事件が頻発している。ヨーロッパでもイスラム過激派の爆弾テロがあるし、中国でも労働者や少数民族による暴動が頻繁に起こっている、と言われている。戦争状態にあるアラブやアフリカの諸国は危険極まりない。

海外で暮らすというのは、死と隣り合わせにいるということである。海外に進出した日系企業はまずは、こうした事実を認識するべきである。海外進出にバラ色の未来だけを見るのは大きな間違いである。

「自分の身は自分で守る」を徹底する

次になすべきは、海外派遣者にこうしたリスクをよく認識させることである。海外に出たら自分の身は自分で守るしかない。この原則がわかっていない人が多くいる。何度か経験しないとわからない人もいる。こうした人には、「最後は自分で責任を取るしかない」と引導を渡すことだろう。

「自分の身は自分で守る」というのは、家に引きこもっていればいいということではない。自分で情報を集め、安全な場所を確保し、危ない場所には近づかないことである。誰でもわかっていることだが、実際にできている人は少ない。

なぜなら、2014のデモでもタイ語がわかる日本人が少ないため、テレビなどの報道からは何も理解出来ないのだ。一方で、信頼出来るタイ人の友人を持っている人は何人いるだろうか? 私自身、アメリカ、タイで暴動や混乱など何度も経験してきたが、そのたびにアメリカ人やタイ人の友人に助けてもらってきた。

これに対して日本本社がやっていることは、マニュアル作りと早めの避難指示。これとて、本部社員の言い逃れとしか私には映らない。いったん事が起こったら、本部社員が役員会に報告するために現地駐在員にレポートを書かせ、結果として現地駐在員が逃げ遅れたなどという笑えない話も実際にある。

人口減少に伴い今後ますます縮小するであろう日本。日本企業は新たなマーケットを求めて海外に展開せざるを得ない。海外に進出した企業の日本本社がやらなくてはいけないのは、マスコミの報道に惑わされることなく、冷静に情報を集めるとともに、現地にいる駐在員の力量に任せることではないだろうか? 現地の駐在員に任せられないとすれば、日頃の社内教育が十分ではないからであり、海外進出に値しない会社だと私は考える。

—次回に続く