海外に出た社員一人ひとりが自らの安全を考えて動けないような会社は、海外に出ていく資格はない。

タイは今や日本にとって一番近い国

韓国や中国の方が地理的には近くても、気持ちの面ではタイが最も近い国だと思われている。確かにタイから日本への観光客は急増中だ。最近では、日本の地方の中規模都市に行ってもタイレストランを見かける。

しかし、今の日本人がどれくらいタイのことを知っているだろうか? 「長い間、国民に慕われている王様がいた」「軍人による政治が行われている」「多くの日系企業がタイに進出」「車の渋滞が激しい」「洪水が頻繁に起こる」……。あなたはこれ以外に、タイについていくつ挙げられるだろうか?

日本のマスコミの記事を読んでいると、タイについてあまりにも皮相的に書かれていると感じる。読者がわかりやすいように単純化して記事が書かれている。また、日本人読者の満足感を得やすくするため、わざわざ日本より劣った部分を強調して報道していると思うのは、私のうがった見方であろうか?

一人ひとりが自らの安全を考える

前置きが少し長くなったが、現軍事政権が発足前の2014年には、タイは政治的な混乱の真っ只中にあった。当時の日本のテレビ報道を見ていると、タイ全土が戦争状態になったかのような錯覚さえ覚えたものである。しかし、実際には私が勤めるバンコック銀行本店があるビジネス街も、日本人が多く住むスクンビット地区も、平和的なデモ行進が行われただけで特に何も起こらなかった。

わざわざデモ隊がいる場所に突入していくなら話は別だが、日常生活に大きな影響は感じられない。いわんや日系企業が多いバンコク近郊の工業団地などは、大掛かりなデモの騒ぎには全く縁がなかった。在タイ日本大使館の非公式調査でも、その時の騒ぎで影響を受けた企業はそれほど多くないと聞いている。

それでも多くの日系企業の日本本社は、その時の混乱についてテレビなどの報道だけで右往左往し、現地の事情もわからないまま、本部社員の言い逃れのために「最善の安全対策」と取ったつもりで、外出禁止令まで出しているケースがある。

こんな腹のすわっていない姿勢では、海外進出もないものだと思わざるを得ない。海外に出た社員一人ひとりが自らの安全を考えて動けないような会社は、海外に出ていく資格はない。

ここまで書いてくると、かなり乱暴な議論をしているように思われるかもしれない。誤解を避けるために、私の考え方を次回詳しくご説明したい。

—次回に続く