【第13回】外国為替リスクからの膨大な損失(前論)

タイに進出している日系企業のうち3割程度の企業は外国為替リスク(以下為替リスク)への対応を十分にしていない、と私は推測している。

2008年のタイ商務省のデータに基づいてバンコック銀行日系企業部が行った在タイ日系企業の業績調査によると、当時約4000社あった、実質的に日本企業が会社の経営に関与しているタイ法人のうち約3分の1は、恒常的赤字もしくは債務超過状態であった。このうち08年の1年間に急速に業績が悪化し債務超過に陥った企業の大半は、この年に進行した急速な円高、バーツ安に伴って表面化した為替損失によるものと思える。業績の悪い企業の約3分の1がこうした為替リスクに伴う損失だったことを考えると、全体でみても3割程度の企業は為替リスクへの対応が十分でないと推定される。

実際、私ども日系企業部の部員がお客様を訪問しても、為替リスクを放置しているお客様は多い。この要因は以下に大別出来る。

①為替リスクの存在を全く理解していない
②現地に取引銀行を持たないため、為替リスクのヘッジができない
③為替リスクについては理解しているが、その恐ろしさについて実感していない

保護・被保護の関係と感覚的な思考経路

そもそも為替リスクを伴う取引とはどのようなものがあるだろうか?

①日本の親会社からの原材料の円建て買い入れ
②日本の親会社への製品の円建て輸出
③日本などから輸入した機械設備の円建て延べ払い
④親会社からの円建て親子ローンまたは日本の金融機関からの円建てローン

これらの事例では、日本との取り引きを想定し円建てに限定しているが、タイの日系企業であればバーツ以外の通貨はドルを含めてすべて為替リスクを持つこととなる。

日本国内だけで円建て取引を行ってきた会社が初めて海外に進出した場合、こうした為替のリスクを理解できていない。またオーナー系企業がタイへ進出し、子会社の経営を部下に任せるケースなどでもこうしたことがたびたび起こる。

タイに取引銀行を持たないため、為替リスクのヘッジができない

タイに進出する企業で、進出後の銀行取引を事前の計画に盛り込んでいる会社はそう多くない。会社登記申請、工場建設、従業員の確保など差し迫った課題をこなすのに精いっぱいであり、ついつい銀行取引は後回しになる。

また、日本の主取引銀行がタイで支店を持っていない場合、頼るべき銀行を見つけられないまま、ずるずると操業に向かう。しかし、実際には多くの場合、創業後の運転資金が必要だったり、創業に伴う赤字資金の補てんが必要だったりする。こうしたケースで数多くの企業で行われるのは、円建ての親子ローンであったり、円建て買掛金の支払い猶予であったりする。特に「円は金利が安いため、バーツ借り入れをするより得である」などと為替リスクについて全くの無理解が絡むと“複雑骨折”となる。

最近では地方金融機関が自ら為替リスクを理解しないまま、円建ての現地貸し付けを積極的に売り込むケースがある。

タイで子会社の経営を行う場合、ほとんどの会社において為替による損失を避けるため、バーツ建てで借り入れを起こすべきであり、よしんば円建ての親子ローンなどを組む場合でも通貨スワップという為替リスクを避ける手法を使うべきであるということを肝に銘じておいて頂きたい

—次回に続く