【第12回】赴任した国を 好きになる努力をする(後論)

タイを語る上で私がまず申し上げたいのは、「タイは餓死も凍死もしない豊かな国である」ということである。何もしなくても年3回収穫できる米、道わきにはバナナなどの果物がふんだんにあり、食べ物には困らない。また、常夏の国であり屋外で寝ても凍死はしない。生きることへの恐怖感が少ない国なのである。

保護・被保護の関係と感覚的な思考経路

タイ社会のきわめてユニークな特徴の3番目としては「保護・被保護の人間関係」が挙げられよう。タイ人同士の会話がわかるようになると、彼らが「ピー(兄貴)」「ノーン(弟)」と呼び合い、どんな二者間であっても必ず上下関係があることに気づくだろう。豊かな農耕社会であってもその中世時代において、国民を土地に縛りつける「サクディナー制」を敷いた。しかしあまりにも豊かであったタイ国民は病気などでその所有地を失っても隣の土地を開墾すれば生きていけたのである。

こうした豊かな国土を背景に、人が人を強く支配する関係は生まれず、その代わり緩やかな人間関係である保護・被保護の関係が生まれたのである。この保護者となる人の資質は人望が厚く、人の世話を焼き、時には食事をおごってくれるような人なのである。

タイ人の特徴の4番目は、その思考経路が論理的でなく感覚的なことである。タイ人の大学の発祥が小乗仏教典の記憶中心の教育であったという歴史要因もあるが、それ以上に言語体系の影響が大きいと私は考える。

タイ語は日本語と並び珍しく主語を省略できる言語である。“私”という意識をせずに動作を行う。また、時制もあいまいである。未来や過去を表す助動詞はあるが、必ずしもこうした助動詞を使うことなく前後の関連で時制を推測する。また、原則的に受動形がない。能動形だけの文節となり、ものごとを裏側から見る習慣は育たない。こうした言葉の特徴が、タイ人の思考回路を非論理的にしている。一方で外交における変幻自在なバランス感覚や、デザイン力など論理力とは違った優れた才能も多くある。

同じ目線に立ち保護者の側に

タイ人には日本人とは異なる多くの特徴がまだまだ存在する。しかし今までに見てきた4つの特徴だけでも、タイ人に対し日本人と同じ発想の管理をしていては駄目だということがおわかりいただけよう。

すなわちタイ人と同じ目線に立ち、まず彼らの内側の世界の人間となり、次にその中で保護者の側に回る立ち居振る舞いが必要となってくる。さらにはタイ人に対してポジティブな目標設定を行うことが彼らの労働に対するモチベーションを高めるのである。「あなたのために働こう」とタイ人が思ってくれたら大成功である。

これに対して、業績の悪い会社は日本人がタイ人を馬鹿にしているケースが多い。こうした会社ではタイ人は働かなくなり転職を繰り返す。あげくの果てにストライキ。こうなると、業績回復への道筋が見えなくなってくる。

約40年前、私が最初の海外赴任をする際、私の大先輩は海外赴任の知恵として以下の3つを教えてくれた。

①海外においては自分の身は自分で守る
②赴任したその国を好きになるよう努力をする
③家族を大切にし、お互いに協力し合う

大変な慧眼である。赴任した国に興味を持ち調べ、さらに好きになる努力は海外赴任を成功に導く大きな鍵である。

—次回に続く