タイに進出した日系企業が成功できない理由の1つに、企業内犯罪がある。今回はこれを取り上げたい。

日本は、世界でもまれな企業内犯罪の少ない国である。島国で、それゆえ長い間世界の中で孤立して生活してきたため単一の社会である日本で、もし企業内犯罪を起こせば逃げ通すことは難しく、社会的な制裁も受ける。逆に「働かなければ生きていけない」という恐怖感が、職を失ってしまう企業内犯罪を抑止する効果がある。

しかし餓死も凍死もしないタイにおいて人々は失職に対する恐れもなく、地続きの国境は他国への逃亡を可能にする。かつ階級社会であるタイでは、一般労働者が不正を働いたとしても、同じ下層社会の人間がかばおうとする人情も働く。

2007年のタイ警察などのデータ(注)によれば、企業内不正の発生率は世界平均でも45%と高いが、タイはさらにこの上をいく51%である。半数以上の会社で企業内不正が起こっている勘定である。特に企業内犯罪に免疫のない日系企業は、この不正によって大きな打撃を被る。日本の上場企業のタイ子会社で、数億円単位で被害に遭っているケースが数例ある。

こうした不正は通常、表に出ることはめったにない。銀行は不正解決にあたって相談を受ける立場にある。特にタイの日系企業で不正が発生した場合、日本人経営者は、企業内のタイ人すべてを信用できなくなり、バンコック銀行の日本人の担当者のところに駆け込んでくる。今回は、私が見てきた企業内犯罪の実例をお話したい。

経理担当者が架空売上などを計上し、会社資金を横領

あなたがタイにある日系企業の責任者で小切手のサイン権者であると仮定する。あなたは会議のため、日本本社に1週間出張しなければならない。こんな時、あなたはどうするだろうか? かなりの人は白地小切手にサインだけをしてタイ人の経理課長に託し、タイ帰任後に発行小切手のチェックもしない。「タイに来て仕事をするからには、タイ人を信用しなければいけない」などと日頃言っていた人が、こうした事例で数億円の被害に遭われたケースもある。

日本以外の国で白地小切手にサインだけをして渡す行為は、相手に「犯罪をして下さい」とお願いしているのと等しい行為である。しかし残念ながら、こうしたケースが後を絶たない。

白地小切手にサインをしないまでも、経理担当者が持って来た小切手がタイ語で書かれたりしていて支払い先を確認しないままサインをするケースもある。

また、小切手帳の管理は、大丈夫であろうか? 白地小切手が数枚抜かれてはいないだろうか? なかには1冊丸々持ち出され、数年にわたって会社資金が横領されていたケースも多くある。

注:タイ警察は2007年以降犯罪分析データーの開示を行っていない。

—次回に続く