【第05回】タイは日系企業にとって宝の山か?(前論)

最近の日本企業の海外進出動向にかかわる調査結果では、人気国はベトナム、カンボジア、インドなどになっており、かつての中国やタイなどから変わってきているようである。実際私どもバンコック銀行と提携している日本の銀行の方からも、顧客からの進出相談はこれらの国に多いと聞く。しかし実際には日系企業は相変わらず「タイ」へ新規進出したり、多額の投資を続けたりしているのである。

日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所は、タイ商務省データを基に定期的に在タイ日系企業進出動向調査を行っている。17年10月の調査によれば企業活動を継続している在タイ日系企業社数は5,444社であり、3年前に比較して877社も増加しているのである。

さらに日本の経済産業省及びジェトロの調査をバンコック銀行日系企業部で分析したところ、2010年以降の設備投資額は米国に続きタイが2番目であった。すでにタイに進出している日系企業が引き続き事業拡大をしている様子が伺える。

日系企業がタイに集積する理由とは

なぜタイにこれほど多くの日系企業が集積してきたのだろうか? その理由を探れば、タイは日系企業にとって宝の山かどうか分かるだろう。

その要因の第一は、成長するASEAN(東南アジア諸国連合)マーケットへの追求である。藻谷浩介氏がその著書『デフレの正体』(角川0ne テーマ21、2010年)で看破した通り、日本は1992年ごろのバブルの崩壊をきっかけに経済が停滞したわけではない。98年ごろと推定される生産年齢人口(15~64歳)の減少にともない、同年をピークに国民総生産(GDP)が下降し始めたのである(野口悠紀雄・一橋大学名誉教授の言葉によると、円安バブルによって2007年にGDPが増加したが一過性のものと思われる)。歴史の教訓から言えば、生産年齢人口の減少は経済の停滞に直結するが、これをひっくり返すのは至難の業である。

もちろん国家としての手立てがないわけではない。女性労働者や高齢労働者の活用、移民の受け入れ、さらには金融産業の構造変化などによって、経済の活性化に成功した国もある。しかし日本は「アベノミクス」に見られるように金融緩和と補助金政策に終始し、抜本的な対策を打っていない。結果、すでに20年以上の経済停滞を甘受している。日本企業はこうした「国家の無策」から逃れるために、海外に活路を見出さざるをえないのである。

海外に進出したり、進出を検討したりしている日本企業にとって4億7千万人の人口を持つASEANマーケットは大きな魅力である。「中国13億人の20%を狙うのか、ASEAN4億7千万人の50%を狙うのか?」と問うたのは、15年前の日系オートバイメーカーのタイの現地法人の社長であったが、今まさに日系オートバイメーカーのASEANでの活躍を目の当たりにすると、正しい判断であったことがよく分かる。

日系企業のタイ進出の第二の要因は、タイでの生産は高品質で効率的な点である。メイド・イン・タイランドの製品はいまや日本の製品より品質が高いと言っても過言ではない。大手自動車メーカーの不良品比率は10PPM(1万個あたり10個)を切り、1台あたりの生産効率を計る「タクトタイム」は最繁忙時には1分を切る水準にまでなった。これはまさに日本と同水準、いや日本を超えたものとなっている。

タイの工場では工程ごとに検査が行われるが、タイ人労働者の賃金は割安感があるため人件費への圧迫感は少ない。きめ細かな検査で最終工程の不良品比率が下がるとともに、中間工程で発生する不良品の再生によってコストも削減される。効率的な管理といえば、ある大手メーカーの日本本社社長から聞いた話も印象的だった。「タイの製品が日本製より優秀なのは当たり前ですよ。私の会社の日本の国内工場では5カ国の人が混在して働いており、工場内には手順書が5カ国語で貼り出されています。タイではこれが1カ国語だけで済むのですから、管理は簡単です」。

—次回に続く