【第77回】フランス人は10着しか服を持たない(前編)

エディット・ピアフやバルバラの暗くけだるいシャンソンの響きには、歌詞の意味も分からずに酔いしれた。

映画の世界も「太陽がいっぱい」「シェルブールの雨傘」「男と女」「さらば夏の日」などフランス映画全盛の時代であり、アラン・ドロンやカトリーヌ・ドヌーヴの美しさに圧倒されたものであった。

しかし戦後の日本は米国の影響を大きく受けており、生活様式や文化、また、ものの考え方まですっかり米国流となり、いつの間にかフランスは私にとって遠い国となっていった。

フランス人の優雅な暮らしぶり

4、5年前のことである。日本出張の際、たまたま立ち寄った東京駅のブックストアで見つけた『フランス人は10着しか服を持たない』(ジェニファー・スコット/著、大和書房)という本を衝動買いしてしまった。

フランス人という響きに胸が高鳴ると共に、そのフランス人の生活様式に興味を持ったからである。

本の内容はアメリカ人である著者スコットがフランス人貴族の家に留学し、あまりにも米国慣習と違うフランス人の暮らしぶりに驚き、その違いを書き記したものである。

彼女は幾つもの違いを実例をもって書いているが、私が面白いと思ったのは以下のものである。

1.3度の食事に全力を傾けて楽しみ、間食はしない
▶アメリカ人はベッドに横たわりながら、だらだらとテレビを見ながらポテトチップスなどを食べる
2.毎回小まめに買い物に出かけ、普段から体を動かす。

ジムには通わない
▶アメリカ人は自動車を多用。

そのくせダイエットを気にしてジムで体を動かす
3.自分の定番のスタイルを見つけ、洋服は質の高い服を10着しか持たない。

また普段からこの洋服を着る
▶アメリカ人はちょっとでも気に入った服はすぐに購入し、クローゼットに山のように保管している。そのくせ普段はTシャツとGパンで暮らす
4.一番良い持ち物(家具、食器、洋服など)を普段使いし、家の中はいつも片付いている
▶アメリカ人は安物(時にはプラスチック製)のナイフとフォークを使い、いつ失っても良い準備をしている。

家中にこうした安物の家具や食器、食べ物が乱雑に置かれている
5.新しいものに興味を持ち教養を身につける。

このためには本や新聞を読み、美術館や劇場に足を運ぶ
▶アメリカ人はテレビを見ながら食事をする。

ファッション雑誌をよく読むが読書はあまりしない
私にはフランス人の知り合いがいないわけではない。

この10年来、同じバンコクのアパートに住み、時々声をかけあうフランス人の知り合いがいる。

このご夫婦はともに太っておらず、洗練された洋服をいつも着ている。

しかし私がフランス人に関して知っているのはそこまでである。

フランス人の生活の内実については全く知らない。

一方、アメリカには10年暮らして彼らの生活ぶりは見てきた。

著者のスコットがフランス人の生活ぶりと対比して述べたアメリカ人の生活は、私にとってはなじみ深いものである。

ソープオペラと呼ばれるアメリカ人の中・下流家庭を描いたドラマにもスコットが述べるアメリカ人の生活そのものが出てくる。

そしてこの「アメリカ人の生活ぶり」は「日本人の生活ぶり」と置き換えてみても全く違和感が無い。

アメリカから輸入した大衆消費社会の生活様式にどっぷり浸かってしまった日本そのものである。

それにしてもフランス人は本当にこんな優雅な生活を送れているのだろうか? 何ともうらやましい生活スタイルである。

「私もこんな生活を満喫したいものだ」。

こんなことを考えながらも、一方でフランス人がこんな生活をしているか半信半疑であり、私の脳裏からは次第にこの本のことは消し去られていた。