【第70回】朋あり日本より来たるまた楽しからずや

中学・高校時代の同級生で、有志で運営しているネットマガジン「ニュース屋台村」の執筆陣となってくれている玉木林太郎君が仕事でタイに来たときの話である。時間をとってくれて夕食を共にした。

玉木君は日本の財務省に入省し国際局長、財務官を歴任。その後パリに本拠を置く経済協力開発機構(OECD)のナンバー2として出向した後、現在は国際金融情報センターの理事長の要職にある。彼のタイ訪問時や私の日本出張時などに、彼に時間を合わせてもらって年に2、3回は痛飲している。今回は寿司屋で会食した。

円安、CO2排出量問題を談義

酒が少しまわってきたところで、本題のビジネス談義に移ってきた。

そもそも円高支持者である玉木君も私も、ここ数年の円安については心配しきりである。

海外に住む我々にとって円安は、直接の収入減となる。

日本の国力の著しい低下がなせるわざなのである。

それだけではない。

日本の通貨別国際収支を見ても2000年半ばからはドル建ての貿易収支は輸出よりも輸入の方が多かったのである。

つまり、円安は日本の国際収支を著しく悪化させたのである。

輸出業者と日本株保有者は儲かる構造となっているが、輸入品の最終需要者である国民や輸入品の値上がりを価格転嫁できない中小企業などは苦しい状況になっている。

「世界を見回してみても、自国通貨が安くなって喜んでいるのは日本国民だけだね。

自分が貧乏になっていくのに喜んでいるのは理解できないよ」。

世界各地を転戦している玉木君だからこそ説得力がある。玉木君が危惧するもう一つの点が、二酸化炭素(CO2)の排出量の問題である。

「CO2を主とする温室効果ガスの排出により地球の温暖化が進行している」という理論は一部の人により異論がとなえられているものの、ほとんど世界的には「通念」になろうとしている。

特にヨーロッパはロシアからの天然ガスの輸入に生存権を預託しているような状況になっており、この点からも真剣に課題に取り組んでいるようである。

09年のCO2排出量の国別シェアを見ると、中国28.0%、アメリカ15.0%に対し日本は3.5%。

一方ヨーロッパ諸国は、ドイツ2.3%、イギリス1.1%、フランス0.9%などとなっている。

一見すると中国の比率が高いように見えるが、1人あたりの排出量は世界各国の中でも下位に位置する。

さらに数年前から中国政府はCO2排出量の削減に声高に叫んでいる。

強権発動が出来る中国政府だからこそ、急速に事態が改善すると玉木君は読んでいる。このままいくと、この問題で遅れている米国と日本は、中国・欧州連合(EU)によって新興国を取りこまれ、世界で孤立するリスクさえある。

第1次世界大戦後、世界の覇権が英国から米国に移った。

今世界の覇権が米国から中国に移行する時期である可能性もある。

こんな時に将来世界中から糾弾される可能性がある石炭石油発電所のインフラ輸出に日本政府はいまだ固執している。

本当にこれが正しい施策なのであろうか? ちなみに発電施設で最もCO2の排出量が多いのが石炭で、太陽光の25倍、次に石油、天然ガスと続く。

しかし、日本のマスコミ報道を見ていると「すでにクリーンな石炭発電所が開発され、CO2問題は解決された」ような錯覚に陥る。

実はそんなことはないのである。

有名人である玉木君は、日本のマスコミからもよく取材を受ける。

その時にはこの円高問題とCO2排出問題について彼は私見を述べるようだが、ほとんど記事にされないそうである。

一般受けしない議論やスポンサーである財界などに影響の出る意見はどうも取り上げられないのではないかと、私は危惧している。

そうこうするうちに2人で日本酒を6合も飲んでしまった。

続きは私のアパートでやろうということで場所を移した。

酒も進むうちに、話はクラシック音楽、日本文学、世界の歴史へと飛んでいく。

ありとあらゆるジャンルに知識を持つ玉木君の教養にはあきれるばかりである。

今でも1カ月に数十冊の本を読んでいると言う。

地道な勉強と努力がなければ、こんなにはならないはずである。

気がつくとワインが1本空き、時間は夜の11時になっていた。

「また近いうちに日本で会おうな」。

酒の強い玉木君は足どりも乱れず、私のアパートからタクシーをつかまえ、夜のやみに消えていった。

創造力と新たな意欲を与えてくれる友

友人と呼べる人たちにはさまざまな類型がある。

「学生時代の友人」「仕事の仲間」「趣味同好の志」「人生の目的を同じにする者」―。

よき思い出に浸るのも良い。

ワインや音楽の話も楽しい。

技術を高め合うのもうれしい。

日本の将来を憂うのも必要なことだ。

幸いにも私にはこうした友人が何人もいる。

こうした友人たちとくみ交わす酒と会話は、私に創造力と新たな意欲を与えてくれる。

「また楽しからずや」である。