【第69回】地方創生のキーパーソンは誰か?(後編)

地方自治体の方々は「新しい産業を興すためには産学連携が必要である」と考えておられる。このため多くの地方自治体は、大学との連携を模索している。私もこの産学連携については大賛成である。

アメリカの経営学者であるピーター・ドラッガーは、その著書『イノベーショと起業家精神』(ダイヤモンド社、1985年)の中で、技術革新が行われる幾つかの要件を類型化した。

その中で最も数多くあるケースは「あとから考えると“何だ、そんな事”と思うような発想の転換」であると述べている。

これはとりもなおさず「ある人にとっては当り前の事もしくは無用な事が、それ以外の人にとって価値のあるものとなる」ということである。

異なった専門領域の人たちが交わることによって、こうした発想の転換が生まれるのである。

こうした場の一つとして産学連携があるのである。

私は今回、大学の先生にも数人お会いをしてきた。

ここでも私は幾つかこれらの先生から教えて頂いたことがある。

その第一は「ほとんどの大学において明確な指揮系統がない」ということである。

大学の教授の椅子はそのゼミの中での世襲制となっており、「徒弟制」の世界が築かれている。

教授を頂点としたこの縦割社会をまとめる人として「学長」が存在するが、学長のポジションは互選によって選出され、任期も限定されている。

ほとんどの大学において、学長の権限は極めて限定的であると聞いた。

こんな状態では、大学側に産学連携を推進する大きな力はないと思われる。

一方、大学の教授の権限は大学内では強大であるが、優秀な学者であるほど民間企業との接触が少なく、実利的な技術を軽視する傾向にあると聞く。

こうした状況の中で産学連携に大学を巻き込むためには、各先生を個別に呼び込むしかないと思われる。

ところが、地方自治体や地方銀行には大学の先生たちの実力を評価する能力がない。

これについては、地域の有力企業の技術者にご出馬いただき、非公式な食事会などを設定し、各先生の実力を「値踏み」するしかないと思われる。

もちろん、これらの企業の技術者の実力いかんでは「本当に優秀な学者」を見逃す可能性もあるが、とにかくやってみなければ先へは進まない。

今こそ地方銀行が奮起すべき時

ここまで「起業家」と「大学の先生」の選別は済んだ。

次に新産業を興す資金である。

資金面については、地方自治体や地方銀行がベンチャーキャピタルを用意しているが、一般的には投資の回収手段として投資先企業の上場による資金回収を謳っている。

これは正直言って全く使い勝手が悪い。

どれだけの新興企業が上場する可能性があるのだろうか? また「新技術が必ず成功して企業が上場できる」などの見極めを地方自治体の人が出来るのであろうか。

そもそも新技術開発には「研究開発」「製品化」「事業化」の三つの段階が存在すると考えられている。

現に米国のシリコンバレーで提供されるベンチャーキャピタルはそれぞれの発展段階において専門のファンドが資金提供を行っている。

特に「製品化」が完了したばかりの創業間もない企業に対して「ビジネスエンジェル」と呼ばれる富裕個人層が積極的に投資を行っているのである。

日本の地方にも裕福な高齢者層が存在する。

地方銀行はこうした富裕層を説得して「ビジネスエンジェル」ファンドを組成したらどうだろうか。

役者がだいぶ出そろってきたが、最後に「こうした人たちを結びつけるエンジン役を誰が行うのか?」という問題にたどり着く。

本稿の冒頭に述べたが、技術革新や新産業育成を行うためには各分野において優秀な20%の人を集めてこなければ実現しない。

これらの人を選別出来る「リスクを取れる人」であるならば、誰でも条件を満たしていると言える。

しかし、私がここで期待したいのは「地方銀行」である。

地方銀行は公共的な役割があるものの、あくまでも民間企業である。

自分から積極的に20%の優秀な人たちに声を掛けてもなんら問題はない。

また顧客ネットワークもある。

企業とも富裕者層とも付き合いはある。

さらには社内に優秀な人材も抱えているはずである。

「地方創生がうまくいかなければ、地方銀行そのものの未来もない」。

地方銀行の人たちに対して私は声高に叫びたい。

今こそ地方銀行が奮起すべき時である。