【第68回】地方創生のキーパーソンは誰か?(前編)

今年も恒例の10月の日本出張を終え、タイに戻ってきた。今回の出張でも、提携銀行各行の計らいにより各地でセミナーを開催すると共に、地方公共団体や地元大学、また提携銀行を訪問させて頂き、「地方創生」の現場の方々から直接お話を伺ってきた。今回はこれらの方々との面談を通して、「地方創生」を行う上で今後何が必要なのかを考えてみたい。

経済活性化の「当事者」になれない地方自治体

まず地方創生に対して、一番真剣に考えていかなくてはならない主体は「地方自治体」であろう。2014年8月に発刊された増田寛也氏の著書『地方消滅』(中央公論新社)では、「2040年までに全国の49.8%にあたる896の自治体が消滅するであろう」と書かれている。

消滅するであろうと名指しされた自治体は発刊当時、蜂の巣を突っついたような騒ぎになったと聞く。

増田氏は、若者の地方から都会への移住のみならず、現在の高齢者も死亡年齢に達することにより、多くの市町村が自治体を維持するだけの絶対人員に満たなくなる、と主張している。

これとは別に私が危惧しているのは、公共インフラの維持が出来なくなるのではないかということである。

土木関係に従事している方から聞いた話であるが、道路や橋、水道設備などの維持、補修に現在約5兆円使われている。

ところが2020年頃になると、この金額が25兆円程度に跳ね上がるとのことである。道路や橋などの基本的公共財に対して最後の大型投資を行ったのは、中曽根内閣当時(1982年~87年)に承認された第4次国土開発計画である。

それからすでに30年。

今年日本を襲った台風や梅雨前線・秋雨前線などが日本の老朽化したインフラの実態をさらけ出した。

日本のインフラは待ったなしの状態で施設維持のための補修工事が必要な時期を迎えている。

この額が25兆円だという。

日本の税収入が60兆円である。

25兆円という金額がとてつもなく大きな金額であることがお分かりいただけるだろう。

政府はこうした負担を地方政府に押し付けようとしており、早ければここ数年のうちにかなりの数の自治体が破綻の憂き目に遭うかもしれない。

それを避けるためにも、「地方経済活性化による税収の増加」は地方自治体の喫緊の課題である。

ところが、地方自治体を訪問させて頂いて改めて気が付いたことが幾つかある。

まず当り前のことであるが、地方自治体そのものが地方経済活性化の「当事者」になれないということである。今回お会いした地方自治体の方々は、ベンチャーキャピタル(新興事業に対する資金提供機関)を通じて新規産業の育成を目指している方や、地方の特産物の育成、売り込みを真剣に考えておられた。

大学と企業をつなぐ産学連携に取り組まれたり、資金供給に奔走されたりしている。

しかし、あくまでも事業主体は民間企業であり、地方自治体は脇役にならざるを得ない。

地方自治体の方に言わせると、「起業家精神をもった民間会社がほとんどいない」という嘆き節になるのである。

リスクを取りたがらない地方自治体

しかし、ここに二つ目の問題がある、と私は考える。

地方自治体が積極的に有望な企業の選別を行わないのである。

地方自治体には民間企業とのパイプがない、との言い訳もある。

しかしそれ以上に問題なのは、「有望企業の選別を行うことによって、選ばれなかった企業からの批判を恐れる」のである。

すなわちリスクを取りたがらないのである。

誤解を恐れずに言えば、「世界は20%の優秀な人、60%の普通の人、20%無能な人で構成されている」と言われている。

新しい産業を興す人たちは、前述の人たちのなかで20%の優秀な人なのである。

このような20%の人を探し出さなければ地方創生はできないのである。

それでは、どのような人がこの20%の優秀な人に含まれるのであろうか? 一つの解は「海外進出して成功している企業の人たち」ではないだろうか。

そもそも海外進出しようとしている人たちは、初めからチャレンジ精神を持ち合わせている。

かつ海外進出して成功しているということは、異文化への対応も柔軟に行えたという証左である。

「海外進出して成功している企業の人たち」は、新しい産業を創出しうる「宝の山」だと言うのは言い過ぎであろうか。

私は地方自治体の方々を前にしてこうした考えを披露したが、今ひとつ積極的な反応が返ってこなかった。

私の考えそのものには全面的に賛同して頂けたものの、地方自治体が自分からこうした方々に積極的にアプローチするのはは、ばかれるようである。

「公共体はすべての人に平等に接しなければいけない」という暗黙のルールがあるようである。