【第59回】日本は銀行後進国?(後編)

日本のマスコミは、「銀行の顧客サービス調査」と称して高機能で高価なATMを導入した銀行を高評価する。一方、ATMで現金切れを起こそうものなら、クレーマーが金融庁に駆け込む。小心者の銀行員達は結果として顧客クレームの対象となりやすく、かつコストの高いATMを街中から除去してしまったのである。

顧客志向よりリスク回避に血道

ATMの海外開放についても日本の銀行は遅れている。

日本政府や地方自治体が一所懸命声高に叫んでいるのが「海外からの観光客誘致」である。

ところが海外観光客の不満の上位に位置するのが、「日本において現金が引き出せない」「日本には両替所がほとんどない」と言ったものである。

なぜなら日本の銀行のATMのほとんどが海外銀行発行のATMカードに対応していないからである。

何と我々バンコック銀行のATMカードに対応しているのは、日本ではセブンイレブンのATMだけなのである。

ここまで書いてくると、いかにも日本の銀行が怠けていたように聞こえる。

確かに今の日本の銀行の大半は顧客志向よりリスク回避に血道を上げていると思われる。

しかし銀行が身を縮めるように誘導してしまったのは、「正義感ぶって銀行を叩くマスコミ」、「強権的な指導を行ってきた監督官庁」そして「銀行のミスを絶対に許さない国民感情」だと思う。

利便性と危険性は本来表裏一体の関係である。

タイのようにこれだけATMを街中に置いてあれば、当然スキミング(ATMカードの磁気情報等をコピーして盗むこと)も頻繁に起こるし、トラブルも発生する。

「バンコック銀行のATMに自分のカードが引きこまれて、戻って来ない」という問題が日常的に発生している。

暗証番号を間違えられたと自分で言われる方も数人いたが、勝手に機械がATMカードをのみ込んだと言われた人もいる。

またカードについても、バンコック銀行のATMカード以外にも日本の銀行のATMカードやクレジットカードを使った方など様々である。

なぜこれらのカードが機械に吸い込まれたのか、原因は定かではない。

しかし犯罪の多いタイである。

いったん機械に吸い込まれたカードは犯罪が絡んでいる可能性も高く、バンコック銀行では強制的に裁断廃棄処理をする。

そしてバンコック銀行としては新たにカードを再発行して頂くことをお願いしている。

日本の銀行発行のカードを使われた方にとっては、再発行処理が面倒であることは十分承知しているつもりである。

それでも利便性と安全性の両方を確保するためには時には日本のお客様にこうしたお願いをせざるをえないのである。

「カードが機械に吸いこまれたら、バンコック銀行の行員がすぐに飛んできてカードを返却すべきではないか?」と言われるお客様がいる。

もし銀行にそこまで要求するとしたら、タイの銀行はコストに耐えきれず、日本の銀行のように街中からATMを引き揚げざるをえないだろう。

しかしタイ人の方々はそれを望まない。

バンコック銀行はタイの銀行であり、タイ人の価値観の中で業務運営がなされている。

時としてそれは日本人のものと異なる。

こうした価値観の相違を認識し、かつ自分なりにその価値観の違いを吸収していく努力が日本のグローバリゼーションに求められるものではないだろうか? 他国の価値観を理解しようとする姿勢がなければ、日本の銀行のサービスは世界標準と大きくかけ離れたものとなってしまうだろう。