【第58回】日本は銀行後進国?(前編)

バンコック銀行日系企業部には、新たに採用した行員向けに「小澤塾」と名付けた6カ月の研修コースがある。この期間、銀行商品や貸し出しの基本などを、宿題回答形式で、英語で講義を行う。日本・米国・タイと3カ国で銀行業務を実践してきた私は、これらの国でそれぞれ銀行が「似て非なる業務」をやっていることを知っている。「小澤塾」では銀行業務の各国比較もあわせて行う。今回はそのさわりをご披露したい。

米国に35年遅れた日本の24時間ATM

思えば今から35年近く前の1980年、私が初めてアメリカに赴任した時、街のいたる所に現金自動出入機(ATM)が置かれ、24時間無料でATMによる現金引き出しが出来ることに驚いた(アメリカの最初の24時間ATMの導入は68年)。

当時、日本では銀行の支店に併設されているATMで午後5時までしか現金をおろせなかった。

日本で初の24時間ATMの登場は2003年のUFJ24を待つまでなかったのである。

アメリカから遅れること35年である。

一方でアメリカは公共料金の支払いなどでも小切手で行う。

これらの小切手は1カ月後に入出金明細と共に返却され、アメリカ人はこれらの小切手を1枚ずつ自分でチェックする。

アメリカ人は政府・公共機関や銀行を一切信用していない。

「人間は間違いをするもの」更に言えば「人間は悪事を働くもの」という風に考えている。

まさに自己責任の世界である。

自分の金を政府・公共機関・銀行に丸投げで任せるなど考えられないことである。

私の2回目のアメリカ赴任はブラックマンデーの起こった景気絶不調時の1987年からである。

アメリカ人の会社の同僚が株式投資や投資信託などで大損をくらったのを横で見ていたが、それでも彼らはそれらの投資をやめようとはしなかった。

老後の生活は自分達で組み立てるしかないのである。

国の年金に頼るなどの姿勢は感じられなかった。

一方で、銀行業界に目を向けると、米国の銀行は当時こぞってデパートやスーパーマーケットに「インストアブランチ」なる3~5人程度の職員を配置する小型店舗を積極的に開設していった。

これらの店舗は平日は夜8時、土日もオープンする支店であった。

不景気な時にあって安定的な資金を調達するために米銀は効率的な店舗展開を図っていたのである。

タイより劣る日本の顧客サービス

日本がアメリカに対して銀行制度の遅れがあっても仕方ないと皆さんは思うかも知れない。

しかし、ここタイにおいても日本の銀行制度はある意味でタイより劣っていると感じることがある。

まずは銀行の営業時間についてである。

私の勤めるバンコック銀行はタイ全土に約1200の店舗を構えているが、このうち330店舗は「マイクロブランチ」と呼ばれ、平日は午後8時まで営業。

土日も預金・貸し出し・振り込みなどの平常営業をしている。

日本では、りそな銀行が最も進んでいると思うが平日の営業は午後5時まで。

土日の営業店舗はローン・資産運用など限定された業務のみである。

りそな以外の銀行はごく一部を除いてご存知のように平日午後3時で窓口が閉まってしまう。

次に振り込みについてであるが、タイではATM、インターネットバンキングなどを使えば一応24時間振り込みが可能である。

厳密に言うと、深夜近くにコンピューターの更新作業があり、一時的に振込取引が不能になるが、一般の人にはほとんど影響がない。

また、たまたまインターネットによる振込取引がこの時間にあたったとしてもタイの人達はそれを許容する文化を持っている。

ちょっと時間をずらせば再度振り込みが可能なのである。

結果として、タイの人達はATMやインターネットを使ってほぼ24時間買い物決済や公共料金の振り込みなどが出来るのである。

更にタイの銀行の利便性が日本の銀行に比べて決定的に高いのはATMの設置台数である。

銀行支店のみならず、街のいたる所にATMが設置されている。

このATMについては、日本の銀行とタイの銀行の考え方に大きな差がある。

タイの銀行のATMは基本的に現金出金と振り込みのみで、現金入金や通帳の記帳は別の専用機が準備されている。

こうすることによってATMのコストは日本の1~2割程度になる。

またATMの現金がなくなると、画面に「Sorry」という言葉が出て数日間その状態で放置されることもある。

それでもタイの人達は怒らない。

数十メートル歩けば別のATMが見つかるからである。

日本の銀行ではこうした「現金切れ」は許されない。

そのため高価な監視システムと巡回要員が配置される。