【第54回】「経営者」のあるべき姿(前編)

97年7月のアジア経済危機により瀕死の状態に陥ったタイでの業務再建のため、バンコク支店長として派遣されてきたが、それ以降も06年と13年の2度にわたる軍事クーデター、08年のリーマン・ショック、12年の洪水被害、さらには東日本大震災による影響など多くの出来事に遭遇してきた。

21年になるタイでの銀行員生活で、交換した名刺の数は2万人に上る。

見学した工場も600社を超え、訪問させていただいた会社の数は優に1千社を超えているだろう。

今回は、仕事を通じて知遇を得た経営者の方々から学ばせていただいたことについて紹介したい。

タイでの21年で学んだこと

タイに勤務してからの私の最大の財産は、多くのすばらしい方々にお会いできたことであろう。

こうした方々も異国の地に来て言葉もわからず、人脈も無い中で、ほぼゼロからの出発と言って良い。

さらに前述の如く、クーデターや金融危機などの環境激変に見舞われながら、こうした経験を自らの成長の肥やしとし、タイ現地法人の立派な経営者になられた方々を多数見てきた。

当地の日系企業のトップである社長の方々だけではない。

副社長や部長の中にも責任を持って部下を指導し、会社を支えられた人が数多くおられる。

こうした方々からお話を伺う時間は、私にとって至福の時であった。

私はタイに赴任して、ほとんど初めてのことだが日系企業との取引を経験した。

タイに赴任した当初は顧客訪問の際、相手の方々と何の話をして良いのか不安でいっぱいであった。

なにせ営業経験はゼロだし、本来の性格は人見知りなのである(この話をするとほとんどの人は笑って吹き出されるが……)。

というわけで、タイに来てから話題作りのために、タイの歴史や文化を勉強し、ゴルフ理論の本もたくさん読んで、お客様との話に困らないように準備をした。

ところが、1年も経たないうちに気がついたことがあった。

ほとんどのお客様は自社の製品や工場のことなど話し始めると、饒舌になられるのである。

そのことに気づいてからは、お客様の土俵の上に乗って話をすることに努めるようにした。

知ったかぶりをせず、お客様の会社のことを教えていただくのである。

すると大半のお客様は自分の会社のことだけでなく、現在行っている会社のプロジェクトや直面している問題点などについても、素直に話してくださるのである。

こうして多くの方々から色々のことを教えていただいたわけであるが、業績の良い会社の経営者の方々には共通点があると思い当たった。

経営者といっても、大会社の大社長の話をするわけではない。

タイの子会社を立派な業績に導いていった「隠れた名経営者の仕事のやり方」や「経営者魂」についてである。