2番目のT運転手は、W運転手と全く違うのでびっくりした。
とにかく安全運転。
時速100キロ以上は滅多に出さない。
これにより、顧客訪問の際の移動時間が大幅に増加してしまった。
それぞれに「得手、不得手」
それだけではない。
割り込みの車があってもすべて入れてしまう。
歩行者を見かけると必ず止まる。
あまりの人に対する優しさとおっとりさに、使い始めた当初は私もかなりイライラした。
しかし、徐々にT運転手にも良い所がいっぱいあることがわかってきた。
例えば道路の分岐点などでこれから行きたい方向が混んでいた場合など、彼は路肩などを使ってスルスルと前に進み、分岐点近くで割り込んでしまうのである。
他人の割り込みを許すが、当り前のように自分も割り込む。
渋滞時の車線の選び方なども理にかなったもので、結果的に一番早く進む車線を選ぶことが多かった。
もうひとつ面白かったのが、駐車場での駐車場所である。
T運転手はなぜかコンサート会場などでも出口に一番近い場所に駐車して私を迎えてくれた。
これは彼の人徳の成せる術ではないかと思った。
続いて、高齢で2年間勤めた後、定年退職で辞めた3番目のN運転手はさらに驚くことがあった。
昔ながらのN運転手は、自分の仕事は「自動車を運転することだけ」だと思っている。
工業団地やゴルフ場など何度行っても、場所も行き方も覚えない。
それは彼の仕事ではないのである。
その都度、私に道を聞くのだ。
毎日の通勤経路はさすがに覚えたが、車線についても私が指示したものをずっと使い続ける。
状況を見ながら判断するなどと言うことはない。
しかし、そもそもは私が指示した行き方である。
私としても文句は言えない。
こんなN運転手であるが、不器用なゆえに優れた面もあった。
どんな所に行っても、私を迎えるために自動車を玄関の前に置くのである。
警備員に文句を言われてもひるむことなく、私を玄関の前で待つのである。
もっとも時によっては私もそれで恥ずかしい思いもしたが。
現在、私のために働いてくれているS運転手はかれこれ5年になろうとしている。
働き始めたころはまだ若く運転も若干乱暴であったが、現在は制限速度の安全運転をしてくれている。
頭がよく融通も効くため、道を間違えることも少なく割り込みも上手である。
遅刻することもない。
しかし、難点が一つある。
前の3人は暇さえあれば自動車の手入れにいそしみ毎日掃除をしていたのに対し、S運転手は自動車の清掃をあまりしない。
人間にはやはり「得手、不得手」があるようである。
四人四様まるで米国、タイ、日本、中国
自動車を運転するという単純に思えることでも、運転手によってそのあり様が違うということに気づき、私は人それぞれの性格や人生観に思いをやってしまう。
そうしているうちに、私はこうした違いが国というレベルでもあると思いあたった。
W運転手はさしずめ米国。
勝ち気で自分が一番でなければ気が済まない性格。
それによって損をしている部分があるのにも気が付いていない。
T運転手はタイ。
「サバーイ、サバーイ」と生きながら、ちゃっかりと他人の懐に飛び込み、結果として良いポジションをキープしている。
残念ながら日本は、高齢化したN運転手か? 昔ながらのやり方を金科玉条として守り、米国に忠誠を誓う。
最後のS運転手は中国。
知能は高いが自分の興味の範囲でしか動かない。
各国によって運用が大きく異なる。