【第51回】ジンタナさんの退職と日本人クレーマー(後編)

郷に入れば郷に従え

 このジンタナさんが、ご主人の生まれ故郷であるオーストラリアに行くために退職したいと言う。退職を引き止める手立ては無い。ジンタナさんに「JAPAN DESK」での数年間を振り返ってもらった。

 ジンタナさんの日本語は、この数年間で格段に上達していた。いつも笑顔のジンタナさんのファンは数多くいる。ジンタナさんにとって「JAPAN DESK」は我が子のような感覚なのかもしれない。明るい涙を見せながら、この数年間の思い出を語ってもらった。

 ジンタナさんが相手をした日本人顧客の中には、困ったおじさんたちもたくさんいた。「順番を無視し自分を一番最初にやれと主張する人」「年金の受取銀行変更処理をバンコック銀行でやれと無茶振りする人」「銀行のカウンター内に子供がいるのを見つけ大声で怒鳴る人」。いずれも銀行内にも関わらず、大声で文句をつける。決して1人や2人の話ではない。日本人として恥ずかしい限りであった。

 なぜこんな日本人が増えてしまったのであろうか? 老人社会となり、老人特有の頑固さや怒りっぽさが目立ってきたのであろうか。あるいはタイ人を見下しての行為なのであろうか。はたまた言葉が通じないことによるフラストレーションのなせる業なのか。

 当初、私たちはこうした日本人顧客に対して毅然とした態度でお取引きをお断りしてきた。日本のデパートや銀行ではこうした「クレーマー」と呼ばれる顧客の要求に「土下座」や「謝罪文」を書かされたりすると聞く。二言目には「消費者庁に訴える」とか「金融庁に訴える」とか言うようである。「このようなクレーマーをのさばらせるのは問題ではないか」というのが私の問題意識である。

 特にここはタイである。我々日本人はこのタイの地を借りて商売や生活をしているのである。タイのやり方を尊重できないならばタイから退散すべきではないかと思う。繰り返しになるが、ここは日本ではないのである。

 ところが、ジンタナさんはこうした私の意見に明るく応えてくれた。「最近はこうした困ったおじさんたちが減ってきましたよ」。ジンタナさんの素敵な笑顔には、困ったおじさんたちの困った所業を封印する効力があるようである。「明るい笑顔」が何よりも効用のある薬のようである。

おざわひとし。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住21年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。現在ウェブマガジン「ニュース屋台村」に記事掲載中。

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