【第49回】競争力を取り戻そう!(後編)

技術力については、総合的には日本はまだ競争力を持っている。しかしこの技術力についても、私が危惧する事が3点ある。

【技術力】
国は過保護行政をやめ規制緩和を

 第一に、技術の海外流出である。「サムスンには日本の家電メーカー出身者が500人以上働いている」という記事を10年以上前に経済誌で目にした。これらの人材を獲得するにあたってサムスンは欲しい技術をしぼり、それを知っている人材にあたりをつけ、一本釣りをしていくと書いてあった。同様な話を私の友人であるファーウェイ日本法人の責任者が語ってくれた。

 こうした海外企業に再就職していく人を非難する声はある。しかし日本社会は結果平等の社会であり、「有能な人も無能な人も」また「働く人も働かない人も」ほとんど差がつかない社会である。

 優秀な技術者にとっては、高報酬で自分のやりたい仕事をやらせてくれる職場に転職することに逡巡はしないであろう。これにもまして問題なのは、日本政府が推し進めてきた海外企業への技術移転・技術供与である。

 日本の中央政府や地方政府の外郭団体が「地域のすそ野産業育成」をお題目として日本の製造業の技術者をアドバイザーとしてせっせと送り込み、中国などにほぼタダ同然で技術供与をしてきた。

 結果として日本企業は中国企業に対し、技術優位を失いつつある。中国だけでは懲りず、同じことをアジアやアフリカ諸国などでもやろうとしている。フォルクスワーゲンなどドイツ企業は海外工場ではノックダウン生産中心であり、技術を海外に持ち出すことには慎重に対応している。日本は国として技術の保護をどうすべきか再検討すべきであると考える。

 技術力についての2点目は、日本企業の設備更新の遅れである。韓国、台湾、中国の企業が後発国のメリットとして最新の機械を導入し、製品性能の向上とコスト削減を果たしてきている中で、日本企業の設備更新は深刻なほど遅れている。機械設備からくる技術力の低迷は、日本企業の競争力を語るうえでは危険な領域となっている。

 3番目の問題点は、新技術への対応である。日本からの技術供与と新設備の導入などにより韓国、台湾、中国の企業の製品が日本企業が得意としていた大衆向け市場を席巻してしまった。

 一方で、世界全体では階級社会化が進行している。こうした中で富裕層向けの市場をターゲットとするならば、圧倒的な新技術が必要となる。こうした新技術の開発を積極的に押し進めようという企業が今日本にどのくらいあるのだろうか?

「必要は発明の母」である。国は過保護行政をやめ、規制緩和により企業が新技術を開発しなくてはいけない環境に追い込むべきである。一方で、社会全体でこうした新技術を追求する積極的なムードづくりが必要だと思われる。

【販売力】
負けを認め競争力を取り戻す気概を

 競争力を構成するコストについては技術力の項目で触れてきたので割愛し、販売力について述べたい。現在の日本企業で「顧客ニーズの把握力」と共に一番大きな問題は販売力である。

なぜこんなことを指摘するかと言えば、日本企業に本当に商品を売る気があるように思えないからである。

 今や会社の中で権力を握るのは企画部やコンプライアンス部。経営陣も従業員のミスやコンプライアンス違反から起こる社会批判を恐れ、リスクを取らず販売責任は営業部門に丸投げ。会社全体の支援がなくて本当に商品が売れるのであろうか? マニュアルにがんじがらめになった営業部員は課せられたノルマに精いっぱいで、社是にある「顧客第一主義」などはどこかに飛んでしまっている。

 今から10年以上前の話である。韓国ポスコ社はその当時タイ子会社に6人の韓国人営業部員がいた。全員が日本語を話せ、月1回は日本人顧客の所に来て熱心に売り込みを図っていたとのことである。なんとポスコ社はタイにいながら売り込みのターゲットを日系企業にしぼり、日本語を話す営業員を送り込んできたのである。

 更に、この営業員たちは必死に顧客の要望をかなえようという姿勢でいたため、私共のお客様の中には材料の納入先を日系からポスコ社に替えた会社が何社もあった。今、日本企業はこの韓国企業の姿勢に学び、真摯(しんし)に「どぶ板営業(1社づつの地道な顧客訪問)」から始める時だと私は考える。

 人間は嫌なことから目を背ける。日本のテレビや新聞・雑誌には「日本は素晴らしい」という日本を賛美した美辞麗句が並ぶ。しかし日本にある日本家電量販店でさえ、日本の電気製品は隅に置かれるようになってしまった。今、我々が一番やらなくてはいけないのは「日本の競争力の負けを認め、競争力を取り戻そう」とする気概を持つことではないだろうか?

※筆者注=本記事は日本の産業全般を述べたもので、
個別の産業や企業の中には該当しないケースもあります


おざわひとし。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住21年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。現在ウェブマガジン「ニュース屋台村」に記事掲載中。

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