【第48回】競争力を取り戻そう! (前編)

私はここ10年以上にわたって、年に3回ほど日本出張をおこなっている。この日本出張の際、必ずと言ってよいほど行くのが家電量販店である。

電気製品はバンコクでも買える。バンコクで電気製品を買う際、私はなるべく日本製品を買うように心がけている。日本人として当たり前の心情である。ところが意外と困るのが、バンコクで日本製品を買っても日本語のマニュアルがないことである。海外輸出用として製造された製品なので日本語のマニュアルがないのであろう。しかし使い方が難しい商品はやはり日本語マニュアルが必要である。こうした理由で私は日本出張の際は家電量販店に買い物に行く。しかし近年、家電量販店にいくたびに、がっかりする光景に出会う。

家電量販店で敗退してしまった日本製品

家電量販店にとってパソコンはすでに売れ筋商品ではないと見え、売り場は5階にある。そこに行って見ると売り場で一番大きな面積を占めているのがデル。次にASUS。アップルやマイクロソフトのパソコンも売り場の中心にある。

「日本のメーカーは?」と目をやると、ソニーの文字は既に無い。パナソニックやVAIO、NECの商品はほんの数台程度。数年前までは富士通と東芝の日本製品が独自の売り物を確保していたが、今はそれもない。東芝パソコンは日本のメーカーではなくなっている。何とパソコン市場からは日本企業はほぼ駆逐されてしまった。

家電量販店の最重要売り場のある一階は、携帯電話売り場となっているが、ハードの電話そのものは、ソニーモバイルのXperiaを除いて日本製品が見当たらない。アップル、ファーウェイ、ギャラクシーに席巻されている。

この家電量販店の姿を私は絶望感を持って見ている。単に日本の家電メーカーの衰退を見たからではない。日本の家電メーカーの衰退については、もう既に20年近く前からタイでは顕在化しており、タイの家電量販店であるパワーバイなどではサムスンやL/Gなどがほぼすべての商品において主要売り場を占拠している。しかし日本の家電量販店においても、各種行政の規制や日本人の閉鎖意識から実質的に外国製品の締め出しを行ってきたにもかかわらず、日本企業の製品は敗退してしまったのである。

10年ほど前までは、日本の新聞で取り上げられていた日本企業の競争力の問題点はいわゆる六重苦であった。この六重苦とは、円高、法人税高、労働規制、電力不足、環境規制、自由貿易協定(FTA)の遅れの6項目である。

確かに日本に残った日本企業にとって、六重苦の問題はあったかもしれない。しかし1980年代には海外生産にかじを切った電気メーカーにとってこの議論は当てはまらない。「低価格商品は韓国・中国に任せ、高級品に特化する」とした日本の電気メーカーの選択の結果が日本市場での敗北である。あきらかに競争力で劣化したのだと認める勇気が必要な時期にきている。それにしてもなぜここまで日本の電気製品の競争力が落ちてしまったのであろうか?

ターゲットを絞り消費者ニーズを洗い出せ

電気製品の競争力を構成するものは、顧客ニーズの把握力、技術力、コスト、販売力など複合的なものである。それではそれらの要素を一つ一つ見ていこう。第一に問題となるのは、顧客ニーズの把握力であろう。どうも日本企業は日本的視野から抜け出せていない。日本では重要視される軽量、コンパクト、静寂性、機能性、安全性が世界標準の顧客ニーズなのであろうか?

例えば私が赴任したばかりの1990年代終わりのタイ。貧富の差もあり大型冷蔵庫を買える層は上流階級の人たちであったが、そもそも家庭では料理を作らないタイ人である。大型冷蔵庫はメードの働くキッチンに置くのではなく、調度品としてリビングルームに置かれるものであった。ところが日本の大型冷蔵庫のふれ込みは、「一般冷凍、冷蔵、野菜庫の分かれた便利な機能と自動製氷装置」なるもので、前面の扉には幾つもの機能が向き出しとなっている。一方韓国製品は、「重厚な木目デザイン」で立派な家具と見間違うほどのもの。これでは最初から勝負になっていない。

日本は1998年に生産年齢人口(15歳~64歳)がピークアウトした以降、経済規模は縮小してきている。こうした中で日本企業は「待ったなし」に世界に打って出なければならない時期に来ている。世界で売るためには世界のニーズを知らなければならない。ところが「世界」と一言で言っても地域や国によって事情は異なる。

20世紀までは世界の消費市場は米・日・欧の3地域だけに限られていたと言っても過言ではない。当時の米国、日本とも第2次大戦以降、中流階級が台頭してきており、日本製品はこの中流階級向け商品とし最適なものであった。

しかし21世紀に入り、米国も貧富の差が拡大。一方、中国、東南アジア、中近東など中進国と呼ばれる購買意欲の強い国が台頭してくると、日本製品はこれらの国の購買層のニーズに合わなくなってきたのである。

繰り返しになるが、地域や国によって社会構成、収入、生活習慣、文化が異なり、消費者ニーズも異なるのである。今一度原点に立ち返り、ターゲット地域をしぼり、その地域の消費者ニーズの洗い出しが必要である。


おざわひとし。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住21年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。現在ウェブマガジン「ニュース屋台村」に記事掲載中。

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