【第46回】考えて、考えて、考え抜こう!(中編)

【第46回】考えて、考えて、考え抜こう!(中編)

ここで、私は知っている「考える人」の事例を紹介したい。長い人生の中で、私はこれまでに多くの「考える人」にお会いした。今回ご紹介するのは米ロサンゼルスで法廷弁護士として活躍されているスティーブ・ブルーム氏である。

米国で体験した
倒産がらみの係争案件

彼は「ストリートファイター」と呼ばれ、あらゆる手段を使って徹底的に相手をやっつける法廷弁護士である。1990 年以降、私は東海銀行ロサンゼルス支店次長として米国企業取引を統括していた。当時、全米最大手のカタログ販売会社D社が会社更生法を申請し、私はメイン取引銀行の担当者としてスティーブ弁護士たちと共にこの処理に当たらなくてはいけなくなった。
これ以前に勤めていた米国のファイナンス会社で労働法に関わる係争事件の経験があったものの、倒産がらみの係争案件は日米を問わず、私にとって初めての経験である。
更に、私たちを震撼させたのは、D社が東海銀行と全面的に争う姿勢を見せたことである。当時は米国でレンダーズライアビリティ(貸し手責任)という言葉が脚光を浴び始めた時期であり、この貸し手責任を追及したら当代ナンバーワンというA弁護士がD社の選定弁護士となったのである。
このA弁護士は大柄な容姿で見た目も押し出しが強く、かつ弁舌に優れていた。陪審員を前に、とうとうと銀行の悪らつなやり方を披露して陪審員の同情を買い、銀行を連戦連敗に追いやっていった。米国の銀行を相手にして負けなしである。
当時「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などと言われ、アメリカ人から妬まれていた日本の銀行ではとても勝ち目がなさそうに思えた。貸した金が返ってこないどころか、更にいくら賠償金を取られるかと心配する者まで現れた。

勝つためにはあらゆる手段を考える

これに対して、スティーブ弁護士は「米国の裁判は時間と金と知力をつぎ込んだ者が必ず勝つ。すぐにゲームプランを作ろう」と我々を励ました。とにかく勝つことが重要であり、勝つためにはあらゆる手段を考えるのである。米国の裁判システムには州裁判所と連邦裁判所があり、こうした破産関連の裁判は通常、州裁判所に回され陪審員制度が採用される確率が高くなる。
まず、入り口から争うこととした。「東海銀行は外国銀行である」という理由から、本事案は連邦裁判所が適当であると申し出て、判事による裁判が認められたのである。
この決定により、A弁護士が得意とする陪審員裁判を避けることが出来た。次にスティーブ弁護士が採った策は、裁判所によって選定されたB判事の経歴、人脈、過去の判例を徹底的に調べ上げ、B判事への対応策を検討した。B判事は「極めて真面目で、非論理的な議論が嫌いである。また自分の論理展開に自信を持ち、頑固でプライドが高い」という結論になった。
こうした特徴を踏まえ、法廷では、スティーブ弁護士の同僚で冷静沈着かつ記憶力の良いゲーリー・キャレス弁護士に任せることにした。ゲーリー弁護士は被告人尋問において、最初たくさんの質問を脈絡無く矢継ぎ早にしていく。
後半になると、この脈絡の無いと思われた質問の回答を次々につなげていき、回答の矛盾点を暴きだしていく。こうすることにより、D社側が「いかに不誠実で、いい加減な対応をしてきたか」という印象をB判事に植え付けていく。
一方、A弁護士はB判事を前にして銀行悪者論を得意の弁舌で行うが、感情に訴えようとするもので、B判事のテイストに合わない。B判事は時々、A弁護士の発言をさえぎり自分の考え方を説明するが、A弁護士はその説明を頭から否定してしまう。プライドの高いB判事の顔はみるみる赤くなっていく。法廷での審議が始まった後も私たちは定期的に作戦会議を開き、現状分析と対策を次々に打った。
「現在我々が持っている有効カードは何があるのか?」「相手側はどんなカードを持っているのか?それは我々のカードより強いのか?」
それはさながらポーカーゲームのようである。カードを切るタイミングを間違えると、そのカードは有効に使えない。一方で、有効なカードを増やしていく必要もあり、私たちは古い資料を読み込み、相手の過去の失点を洗い出したりした。
更にスティーブ弁護士は法廷審議開始後、私とD社社長の昼食会を2カ月に1回程度設定。弁護士抜きでのパイプの維持を私に求めた。
英語の不得意な私にとってD社社長との差しでの昼食会は大変つらいものであった。「下手なことをしゃべれば裁判で利用されるかもしれない」という恐怖感の中で毎回昼食会を行ったが、努めてにこやかに振る舞うよう心掛けた。
しかし、この昼食会の後は必ず面談記録を作り、スティーブ弁護士たちと検討会を行った。D社社長の発言の裏に何かの兆候が無いかと、常にブレーンストーミングを行った。


おざわひとし。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住21年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。現在ウェブマガジン「ニュース屋台村」に記事掲載中。
www.newsyataimura.com