【第38回】日本食品のタイ向け輸出はなぜ難しいのか(後編)

私たちが陥りがちな誤解の2点目は、日本食を構成する食材の大半は日本独自のものではないということである。

日本食はきわめて限定的なマーケット

タイ人は他の外国人と比べても日本食が好きである。国内に3000店以上ある日本食レストランに行っても多くのタイ人の方が来られている。しかし、多くの日本食レストランのオーナーはタイ人であり、料理人もタイ人である。こうした環境の中で、日本の食品をタイに輸出するのは簡単なことではない。まずタイで一般的に調達できる農産物や水産物などは、輸送コストなどを考えると日本食材が選ばれる可能性は少ない。

食材の最終購入者がレストラン経営者、屋台店主、メイドであり、これらの人は商品の質よりもコストを優先する。日本食レストランにおいてさえ、一般食材は安いタイ産の物を使う。一部高級レストランなどで希少価値として日本産牛肉、さらにはカニ、ホタテなどの水産物を使うが、量的には限定されてしまう。
日本の地方自治体の方が当地に来て「農産物とともに是非売りたい」といわれる日本酒(焼酎を含む)はどうだろうか?

残念なことに、タイ人の方はほとんど日本酒をお飲みにならない。最近でこそ寿司専門店の寿司カウンターで日本酒を飲まれるタイ人を見かけることがある。しかしタイでは、日本酒は日本食レストラン向けに売られるものがほぼ全てと言っても良いであろう。そして、お飲みになる方もほぼ日本人である。
では、当地の日本人はどのような日本酒を飲みたいのであろうか? それは日本で話題となっている日本酒である。蔵元や地方自治体の方は、タイに来て日本酒の売り込みを図るよりは、日本でその銘柄を有名にすることのほうが早道である。

新しい文化を創るという息の長い作業

果物や菓子は、家庭で調理しなくても食べられる食品である。こうしたものはデパートやスーパーマーケットで売って一般家庭が購入する可能性がある。そうは言っても、日本から輸出するとなると商品価格はきわめて高くなる。商品価格が高くなれば必然的に量は限られてくる。量は少なくても、高級食品として商品差別化をして、粗利益率を多く取ることが可能であれば勝算は出てこよう。そうでなければ、タイに進出して現地生産を行うことが次の策となる。

こう考えてくると、日本食品をタイへ輸出することは八方ふさがりのように思えてくる。しかし、真剣に事に当たれば何事も道は開けるというのが私の信念である。

バンコック銀行では系列のバンコククラブで年に2回、日本酒の試飲会を催す。バンコククラブで毎月行われている各国別のワイン試飲会に日本酒を加えてもらったのである。日本大使館やジェトロにご後援いただき、毎回北海道から九州までいくつかの酒蔵のご協力を得て日本酒を出展する。またこれらの日本酒と合わせて日本のおつまみなどを出展していただけるお取引先もある。日本酒と日本食のコラボレーションである。多くのタイ人の方(バンコククラブ会員)に試飲していただこうと思っている。

「食は文化なり」という言葉がある。「生命維持のための食料獲得方法の違いが文化の違いを生み出した」ということから発生した言葉のようである。日本酒をタイ人に飲んでもらうということは、新しい文化を創るという息の長い作業である。そう自分を励ましながら、日本の地域振興に少しでも資するよう日本の食品輸出の手助けをしていきたいと考えている。