【第37回】日本食品のタイ向け輸出はなぜ難しいのか(前編)

【第37回】日本食品のタイ向け輸出はなぜ難しいのか(前編)

タイは世界中で最も親日的な国である。タイ人が海外で一番行きたい国は日本である。親日的なタイだからこそ日本企業ならびに日本人が出資している法人数はタイ全土で5000社を超える。また、日本食レストランも同様にタイ全土で3000店を超える。

タイ人向けアパートには台所がない

日本人の方がタイ人の生活で全く理解されていない1点目は、「タイ人は家庭ではあまり料理を作らない」ということである。タイ人の女性は結婚して子供が生まれても働くのが一般的である。女性の社会的進出は目覚しく、私どもバンコック銀行のタイ国内にある1200支店の80%は女性支店長で占められている。

タイ人女性にとっては働かないことのほうが不名誉である。タイ人と結婚した日本人女性が子供の面倒を見ると言って専業主婦をしていると、周りのタイ人から「なぜ働かないのか?」と猛烈な圧力を受けると聞く。このように夫婦共働きが当たり前のタイ人家庭である。夕食も家族そろって外食か、もしくは屋台などで買ってきた出来上がりの料理を家で皿に並べるのである。私の周りのタイ人のマネージャークラスでも朝食は始業前に屋台で買ってきた料理を職場で食べ、夕食は会社に売りに来る弁当を家族分購入して帰る毎日である。

こんな生活習慣であるため、一般のタイ人は料理を作るための食材をスーパーマーケットで買いに行くことはあまり無い。最近でこそ料理を作ることがファッションとなり、若い女性たちはいくつかの料理が作れるようになった。しかしそれまでは、せいぜいカオパット(タイ風焼飯)か目玉焼きぐらいであった。

これがタイの上・中流階級になると、少し様相が違ってくる。上・中流階級の女性も家族経営の会社の役員をするなど夫婦共働きは一緒である。しかし、上・中流階級の家にはメイド(お手伝いさん)やコックなどが数人いて、家事をやらせている。こうした家庭は料理は作るが、それは主婦の仕事ではない。

私がタイに初めて赴任した1998年当時はまだ、在留邦人数は現在の3分の1(約2万4000人)程度であった。日本人の駐在家族は更に少なく、現在のような日本人専用アパートなどまれであった。

バンコク着任後、私は後から来る家族のためにアパート探しをした。特に妻のために使い勝手の良い台所のあるアパートを探し求めたのである。しかし、いくつかのアパートを見て回って驚いた。タイ人向けアパートには台所がないのである。よしんば、あったとしてもベランダを挟んでメイド部屋に隣接したような不便な場所に設置されていた。

そんな中で、ようやく一定程度の広さでしゃれた台所つきのアパートを見つけた。しかし入居してまたびっくりした。入居する前は気づかなかったが、台所だけ空調設備が付いていなかったのである。やはりタイ人の金持ちは自分では台所に立たないのだと、改めて気づかされたのである。