【第34回】原点に立ち返ろう 日本の観光事業(後編)

土産物で参考になるのは、タイ人がつい最近まで大好きであった「東京ばな奈」や「白い恋人」などのお菓子である。バナナは東京よりもタイのほうがよほど多く収穫されているにもかかわらず「東京ばな奈」である。

タイ人の間で「東京ばな奈」と「白い恋人」が人気の理由

私の職場にも日本から毎日2、3社の訪問客があり、多くの方が土産物を持ってきてくださるが、「東京ばな奈」はタイ人の部下たちがこぞって持って行ってしまうため、即日完売状態であった。

一方、「白い恋人」は徹底したブランド戦略で購入できる場所が限られるため、希少品としての価値を高めている。北海道の本社工場で購入できる、本人の記念写真入りの特注版「白い恋人」は、タイ人仲間で自慢の品となっていた。

食事についても同様なことが言える。最近ではタイ人の中のブームが去ったが、北海道・枝幸町の「歌登の屋台めし」はタイ人が多く押しかける人気観光スポットであった。日本人の方にはほとんど馴染みがないが、「歌登の屋台めし」では日本全国各地の名産品がなんでも屋台で食べられる。しかし、もともと歌登にこうした屋台があったわけではない。歌登の人たちが知恵を絞ってこうしたコンセプトを作り上げたのである。従来の品物や習慣に安住していたら成功はない。

タイ人観光客を誘致するためには、土産物、食事、観光地の3点セットを作り上げる必要があるが、これ以外にもう一つ重要な要素がある。それはタイ人が観光地各地に1日しか滞在せず、次々と場所を移っていくことである。

こうしたタイ人の習性(大半の外国人観光客に当てはまると思うが)を考えると、地方の観光地は近隣の観光地と協力してタイ人観光客の囲い込みをしていかなければならない。ところが地方の人たちと話をしていると、隣県の観光地はライバルであり互いに協力していこうという姿勢は見られない。北海道、東北、中国、四国、九州など各地方が一体となって観光事業振興を図らなければ、タイ人の呼び込みはできない。

4年ほど前のことであるが、タイ航空のバンコク―仙台の直行便が開設後3カ月で休止となった。これは仙台に入るタイ人観光客が東京方面に抜けてしまい、思ったほど搭乗率が上がらなかったためと聞いている。地域連帯は観光事業の大きなかなめである。

現在、バンコク―仙台間の定期便復活が検討の俎上に乗っていると聞いている。地方自治体や地域の金融機関が連携して積極的に観光事業を担っていかなければ、以前の失敗の二の舞になってしまうかもしれない。

従来、日本の観光事業の問題点といえば、インターネット通信環境、両替所や英文標識の少なさなどが取り上げられているが、私が見る限り、そもそもタイ人のニーズの把握が行われていない。観光事業はアベノミクスの成長戦略の重要施策と位置付けられているが、顧客ニーズの把握と地方の連携という原点に立ち返った姿勢がなければ、成功には至らないのではないだろうか。

—次回に続く