日本文化を独自に切り取る カルチャーマガジン『a day』

“まだ世の中に見つかっていないもの”にいち早く反応し、タイを中心とした
トピックを発信する『a day magazine』。創刊から19年の間に、日本についての
特集は22回。その経緯と制作への想いを、4代目編集長のイアウさんに伺いました。

タイに新しいインスピレーションを――。そんな想いから始まった月刊誌『a day magazine(以下a day)』は、未知なる文化やトレンド、誰もが見逃しがちな身の回りの変化を掘り下げ、情報を発信するカルチャー誌です。創刊当初は100ページだったものが、今では200ページとボリュームアップ。タイの雑誌業界で例を見ない前衛的なテーマを掲げ、毎月15万部を発行。タイの若者を中心に、絶大な人気を誇っています。

そんなタイを代表する雑誌の現編集長が、イアウさん。学生時代に『a day』 を手に取り、その強い個性に刺激され、作り手になろうと思ったのだそう。「型にハマらない斬新な切り口、デザインのユニークさ、トレンドに流されない独自の情報……。すべてが、これまでのタイにはない新しさを纏っていました」。

もともと本を読むこと、文章を書くことが好きだったイアウさんは、大学2年時に同編集部でインターンシップを経験。広告とは一線を画す“編集部発”の情報、徹底的なリサーチ力と取材力を肌で感じ、自らもそれを実践。常にアンテナを張り、長い時は1年以上の入念なリサーチを経て、媒体を届けてきました。

今年11月号で特集した『日泰の工芸』にて

「手仕事から生まれるストーリーを伝えたい」(イアウさん)

a day の制作に関わるスタッフたち

これまでのイメージにない
日本の“背景”を伝えたかった

『a day』 が誌面上で初めて、日本文化を題材にしたのは、2002年2月に発行した「ドラえもん特集」。もともと日本に関心があった編集スタッフが、タイでも高い知名度を持つドラえもんを共通項に、その誕生や背景を通して日本文化を紹介。当時、単純に日本の漫画やアニメを紹介する媒体はあったものの、深堀りするものはなく、『a day』 の日本特集の中で最多売り上げを記録したと言います。その後も、一休さんやアトム、仮面ライダーなど、読者の興味を引きつけるキャラクターについて特集を継続。そして、2008年に発行した「超日本」特集が、大きな転機になったと振り返ります。

「当時、タイ人が日本旅行に関心を持ち始め、他のメディアも日本を取り上げていたのですが、そこには東京の有名なスポットに関する簡単な情報しかなかった。我々はもっと深く知りたいと東京取材を敢行し、ブームになりつつあったメイドカフェをはじめ、時代背景や若者文化といった、タイで知られていない“リアルな東京カルチャー”を1冊に凝縮させたんです。日本の最先端と背景をまとめたトピックに大きな反響を頂き、観光機関からも注目されるようになりました」。

この号の発行以前、タイ人と日本の繋がりと言えば漫画とアニメが強かったそうですが、以降はライフスタイルを含めた日本の文化全体に目が向けられるようになったとイアウさん。「現在のタイの日本ブームに、『a day』 も少なからず貢献できていると思います」と、茶目っ気交じりに笑います。自分たちの紹介したいことが、タイの社会に受け入れられた。自分たちは間違っていなかったという喜びと自信と共に、 「新しいトピックを通して、読者にインスピレーションを与えること。流行とは別の枠で、時代を先取りすること」―――。改めて、『a day』の原点を胸に刻んだのだそう。

今ではタイで最も愛されるゆるキャラとなった“くまもん”は、2014年に発行された『a day』の特集を筆頭にブームが始まるなど、タイ人がイメージする日本も、少しずつ変化していきました。

これまでのイメージにない
日本の“背景”を伝えたかった

今年11月号では、日本とタイの伝統工芸やその職人を、現代文化との融合までをテーマに紹介。日本とタイを同時に取り上げることで、どちらからでも、より興味が広がるように構成されています。日本の記事では、高山茶筌(ちゃせん)や箱根寄木細工、漆師、藍師といった日本人でも知る人ぞ知る職人にフォーカス。「機械化が進む現代、私たちの生活が便利になったことは誰もが実感するところでしょう。けれど、便利さ=豊かさではないと我々は考えています。たとえ見た目に差異はなくとも、その裏側にある作り手の想いと歴史が詰まっている。『a day』を通して、手仕事の豊かさを伝えていきたいですし、伝統の後継者が増えるきっかけも作れれば」。

そうした裏側を知るためには、実際に現地を訪れ、人に会うことは欠かせません。インターネットで簡単に、無料で情報を得られるようになった現代ですが、“生きた情報”は現地に行かないと決して手に入らないということを、イアウさんは知っています。インターネット上にはない、より深い情報をどうやって伝えるか。より多くの人にいかに興味を持ってもらえるかが、今後のチャレンジだと言います。そのためにも、インターネットの利用を敢えて減らし、自らの感覚を研ぎ澄ます。そうすることで、読者の心を動かし、“共感”させるコンテンツに結びつけています。「時代が変わっても、まだ見ぬムーブメントを感知し、発信することは変わりません。媒体を問わず、今メディアに求められているのは、原点回帰したシンプルなわかりやすさなのではないでしょうか。自分たちで取材し、体感したストーリーが詰まった誌面によって、読者の新しい発見や閃きに繋がることが何よりうれしい」と目尻を下げます。

未知なる情報は、発見として話題を集める反面、時には誰の琴線にも触れず静かに消えるというリスクもある。その表裏一体の挑戦を、『a day』はこれからも続けていきます。タイで生きる人たちの心が、より豊かになることを願いながら。


PROFILE
イアウ(ニックネーム)
Siwapark Jianwanalee
1985生まれ、サムットプラカーン県出身。2008年、アサンプション大学(ABAC)2年時から同編集部にてインターンシップを経験。08年、正社員として勤務し、17年から編集長に。日本への渡航歴は通算10回。日本と言われて思い浮かぶのは「東京タワー」。好きな雑誌は『BRUTUS』。趣味は読書、カフェ巡り。


『a day magazine』


編集部より
3人の編集スタッフとフリーランス陣で出来上がるという『a day』。その情報量と熱量にいち読者としては毎回驚かされてばかり。特に、『バンコクの穴場』は日本人では見つけられないスポットが多数。お気に入りです


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