「自分に打ち勝つ“強さ”を」 武道を通して自立をサポート

引きこもり、家庭内暴力など、さまざまな悩みを抱える人たちの更正に向けた
支援を行う「ディヤーナ国際学園(以下ディヤーナ)」。その受け入れを
2010年から開始した秋山賢治さんが、武道を通して伝えたい本当の強さとは。

全日本総合空手大会にて、優勝経験6回。日本各地に支部を展開する空手団体「禅道会」で指導に励み、2012年にタイ支部「禅道会 心技道場」を開設した秋山さん。空手や総合格闘技を中心とした武道クラスを運営する傍ら、バンコクでディヤーナ生への支援を続けています。

「武道の良さは、真剣勝負。生死をかけた闘いが根本にあるからこそ、相手と真剣に向き合わざるを得ません。そしてそれは、自分の弱さを見つめることであり、自分自身の成長に繋がります。ディヤーナ側から依頼を受け、武道なら力になれるかもしれないとサポートを始めました」。

そんな秋山さんが武道の道を志したのは、幼少期。「父は酒が入ると母とよく喧嘩を起こす人で、それを見ながら、『親に振り回されず、強くなりたい』という想いがありました。それは全日本で優勝する前まで抱き続けていましたね」。運動が大の苦手だったという秋山さんですが、中学校での剣道部入部が転機をもたらします。「厳しい練習に耐えられず不貞腐れていた時期に、顧問の先生に本気で叱られたんです。言葉の端々は正確に覚えていないのですが、先生が真剣に私のことを考え、ぶつかってきてくれたことがとてもうれしくて印象的でした」。

それからは一転。寝る間も惜しんで練習を続け、全国大会優勝者に勝つまでに。秋山さんにとってこれが初めての成功体験であり、必死に打ち込めば結果がついて来るという自信に繋がったと振り返ります。同時に、人との向き合い方を教わり、それが、ディヤーナ生たちとの関わり方にも影響していくのでした。

少年少女のクラスでは、レッスン前の挨拶やレッスン後の瞑想など、礼節も一緒に伝えています

人との繋がりは、
絶対に断ってはいけない

ディヤーナの活動は、恩師の教えと自分の人生経験の延長線上にあるという秋山さん。両親の離婚、母親の失踪、数カ月のホームレス生活、自衛隊への入隊、タイでの挑戦、信頼していた人からの裏切り……幾度とない苦難を乗り越えてきました。「悩みを抱える人たちは自分だけが辛いと思いがちですが、広い世界を見れば、いろんな人生を生き抜いている人がいます。それを知ることで、周囲に目を向けるきっかけになってほしいですし、私自身の過去についてもオープンに話しています」と笑います。

社会的にも精神的にもどん底を味わったという秋山さんが今、こうして笑い飛ばせるのも、人との関わりによって前を向けたからなのだそう。「最終的に、自分の人生は自分で決断し、進まなければいけません。それが自立であり、自分で責任をとることでもあります。ただその反面、人は自分のためだけには頑張れない。周囲との関わり合いを通して自分の存在意義に気づくことで、頑張れるんです。私自身が歩んで来た武道を通して、それを伝えていければ」。

これまでに受け入れて来たディヤーナ生は、10代から40代までさまざま。数年一緒に過ごしている人も、残念ながら途中で日本に帰ってしまった人もいると言いますが、受け入れ開始から8年を経て、精神の充実と体の健康によって、人の心は快方に向かうことを再認識。

「長い人生の中で人間的に成長する機会は何度もありますが、その時に自分の弱さから逃げずに向き合えるかが重要です。その逃げない心を育むのが武道ですし、年齢問わず、今後も多くの人を後押ししていきたい」。“不動心”を胸に、秋山さんは武道の真髄を追い続けます。


PROFILE
秋山 賢治
Kenji Akiyama
1970年生まれ、福島県出身。17歳で極真空手を始め、95・96年に「北斗旗空手道選手権大会 重量級」優勝。「禅道会」にて指導者となり、2009年来タイ。10年「ディヤーナ」の受け入れを開始し、12年に「禅道会」タイ支部設立。1歳9カ月の長男と奥さんと3人暮らし。座右の銘は「永遠に生きると思って学び、明日死ぬと思って生きる」。


禅道会 心技道場
フィットネスから総合格闘技まで
幅広いクラスを提供
運動・学びのための少年空手、初心者・女性のためのムエタイフィットネス、タイの本式ムエタイ、ビギナーMMA(総合格闘技)、プロMMA、柔術、ヨガなど 多様なクラスを開設。プラカノン、トンロー・ホームプレイス、レインヒル、シラチャに店舗を展開。
[問い合わせ]
Telephone:087-829-2979
Facebook: Zendokai Shingi Dojo
Website:shingi-gym.com


編集部より
強さを求め、厳しい訓練に明け暮れた20代前半。厳しさの先に強さがあると知った20代後半。そして長男が誕生した時、「強さの答えがわかった」と、秋山さんは穏やかに話してくれました


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